方言とは,東京以外の地方の日本語,というイメージを持っている人も多いと思います。この連載でも,東京以外の地方の例が取り上げられてきました。しかし,言語に地域性が認められれば,それが方言です。
第261回「方言の拡張活用はじめて物語」で東京の方言に触れました。方言の拡張活用の始まりは,方言パフォーマンスであり,それは,江戸時代からの落語や世話物歌舞伎という趣旨です。これらは,方言だからこそ成立する芸能です。落語なら「時蕎麦」や「たらちね(言語自体が重要な要素)」,歌舞伎なら「魚屋宗五郎」や「髪結新三」は,江戸弁を聞かせることも演出要素の一つです。東京の方言は,学術的意味の地域言語体系としての東京方言であるとともに,拡張活用がされる方言の地域性を認めることができます。今回は,東京の方言拡張活用から2例紹介します。
1例目は,方言メッセージです。宮城県仙台市の物産展で「らっしゃい!東京」の幟が掲げられました【写真】。「らっしゃい」という威勢のよい呼び声は,私が小さいころの八百屋さんや魚屋さん(最近のスーパーの青果コーナー,鮮魚コーナーでなく)を思い浮かべます。
2例目は,方言ネーミングです。美空ひばりさん主演の映画に『べらんめえシリーズ』(東映)があります。「べらんめえ」とは,東京の昔ながらの江戸弁の口調を表すことばです。このシリーズは,1959(昭和34)年から1963(昭和38)年まで,全部で10作が公開されました。第8作を除く,第3作から第10作の7作は,「べらんめえ芸者シリーズ」となっています。第4作から第9作では,他作品でも多数共演のある相手役,今年文化勲章を受章した高倉健さんとの名コンビがいいリズムを出しています。
美空ひばり『べらんめえ』シリーズ
①東京べらんめえ娘(1959年3月)
②べらんめえ探偵娘(1959年9月)
③べらんめえ芸者(1959年12月)
④続べらんめえ芸者(1960年3月)
⑤続々べらんめえ芸者(1960年8月)
⑥べらんめえ芸者罷り通る(1961年1月)
⑦ひばり民謡の旅 べらんめえ芸者佐渡へ行く(1961年8月)
⑧べらんめえ中乗りさん(1961年10月)
⑨べらんめえ芸者と大阪娘(1962年2月)
⑩べらんめえ芸者と丁稚社長(1963年1月)
東京の方言の拡張活用例は,ほかにもあります。東京にも注目してください。