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第9回 【適所適材】てきしょてきざい

筆者:
2020年5月25日

[意味]

求められる役割にふさわしい人材を充てること。

[類語]

適材適所

[関連]

人材不足・高度人材

 * 

組織の人事関係でよく言われるのが適材適所。「人の能力・特性などを正しく評価して、ふさわしい地位・仕事につけること」(大辞林)をいいますが、はたして言葉どおりにそんなことができるのか疑問に思う人は少なくないでしょう。人間が人間を正しく評価できるのかどうか、かなり難しい問題だと思います。

関連して「適所適材」という語を見ることがあります。新聞では登場件数が少ないのですが、もともといる人を適した職場に置くのではなく、役割にふさわしい人を配置するという考え方です。この場合、もとからいる人材ではなく、外部から人を求めることもあります。経営トップに自社生え抜きではなく、外部からプロの経営者を招くといったことも増えてきました。

日本経済新聞朝夕刊、日経産業新聞の記事データから「適所適材」を検索したところ、初出と思われるのが1984年2月11日付朝刊四国経済面に載った記事でしたが、これは「適材適所」と同義で使われていました。早いところでは1986年6月23日付の日経産業新聞の記事で、外部からスカウトした人物を役員に迎え入れたという話が登場します。

「適材適所」と「適所適材」。一見、同じように見える語ではありますが、「適所適材」には、日本企業における採用活動や人事制度の変化が見て取れます。新卒一括採用、年功序列に終身雇用といったこれまでの日本型雇用システムにとらわれない専門的なスキルのある人材の登用を意味します。経団連は1月21日に発表した経営労働政策特別委員会報告で、日本型雇用制度の見直しを求め、年功ではなく仕事の内容で賃金が決まる「ジョブ型」雇用との併用を呼びかけたと報道されました。「適所適材」はまだまだ直接目にする機会の少ない語ではありますが、その意味するところは、日本企業に浸透しつつあるようです。

 

「適所適材」出現記事数

*日本経済新聞朝夕刊、日経産業新聞の記事を調査。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。長く作字・フォント業務に携わる。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書などに『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2018年9月から日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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