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第8回 【二毛作店】にもうさくてん

筆者:
2020年4月27日

[意味]

1つの店舗が時間帯により、異なる2つの店として営業する形態。飲食関係に多い。

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久しぶりに見るなあと思ったのが、3月20日付日本経済新聞の朝刊企業2面にあった「二毛作店」。作業服販売大手のワークマンが新業態の店舗を開業したという記事の見出しで、紙面に大きく躍っていました。

実は、久しぶりというのと同時に珍しいとも思いました。二毛作店を展開するビジネスは飲食関係に多いからです。ワークマンのようなアパレル関係は新聞では初めて見ました。新型店は時間帯によって店の看板や照明などを変えて、作業員向けの「ワークマン」とアウトドア衣料品などで女性客を集める「ワークマンプラス」の2つの顔を持つのだそうです。

二毛作といえばもとは「一年間に米と麦、あるいは米と大豆というように、二種類の異なった作物を同一の耕地に栽培し収穫すること」(大辞林)ですが、転じて「同じ場所で昼夜2つの店を営業する」二毛作が新聞記事に登場するのは1980年代以降。新聞記事データベース「日経テレコン」を使い日本経済新聞と日経MJ(流通新聞)に掲載された「二毛作店」を検索したところ、頻繁に紙面で見られるようになるのは1990年代でした。

ブレス(現プロントコーポレーション)が1990年にコーヒー(昼)とショットバー(夜)の二毛作店「プロント」で全国展開を始めると、歩調を合わせるように「二毛作店」が紙面に現れました。ほかにも「うどん×しゃぶしゃぶ」「ハンバーガー×ピザ」「そば×居酒屋」「パスタ×イタリア小皿料理」「サンドイッチ×パブ」「社員食堂×居酒屋」といったいろいろなタイプの店が登場。その多くは夜の営業でアルコール類を提供し売り上げ増を狙ったものです。季節によりゴルフ・スキー用品を別々に販売する店もあれば、飲食と異業種の組み合わせもありました。

ちなみに、こうした意味の「二毛作」を早く取り入れた国語辞典は『三省堂国語辞典』の第7版(2014年)で、俗語として「〔飲食店が〕昼と夜とで別の営業形態をとること。例、昼はラーメン店、夜は居酒屋」と説明しています。2000年代になり「二毛作店」は紙面に登場する回数が減りましたが、2020年代は新しいタイプの二毛作店が増え、紙面を飾っていくことになるのでしょうか。

 

「二毛作店」の出現記事件数

*日本経済新聞朝夕刊、日経MJの記事を調査。2020年は3月まで。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。長く作字・フォント業務に携わる。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書などに『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2018年9月から日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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