上級学習英和辞典
難関大学の英語系学科を受験する高校生,予備校生や大学生,英語教員をはじめとした専門家を対象とした,学習英和辞典の最高峰です。これ1冊あれば,大学受験生から社会人,英語の専門職まであらゆる用途に対応します。以下は『ウィズダム英和辞典』の例ですが,文法書,語法書顔負けの詳しい囲み記事やコーパスを検索した結果に基づいた詳細な記述は,他のタイプの辞書の追随を許しません。統語論,意味論,語法研究といった,英語学の最新の知見が惜しみなく本文に反映されているため,私を含め,研究者が真っ先に手をのばす辞書でもあります。
ただ,英語の苦手な高校生には情報量が多すぎて使いにくいと感じるかもしれません。たとえば,『ウィズダム英和辞典』ではgoの項目は句動詞を含めると実に10ページにわたっており,二カ国語辞書としては,日本国内はもちろん,全世界の辞書の中でも有数の詳しさです。そのため,必要な情報を取捨選択して迅速に探し出すには,ある程度の慣れが必要になるでしょう。「語数が多く,文法・語法の解説が詳しい辞書でないと英語力がつかない」と考える先生方も少なくないようですが,必要な情報を見つけるのに時間がかかり,英語が嫌いになってしまっては元も子もありません。
英語に興味のある学生や,外国語大学などで英語を専門に学ぼうとしている人には非常に役に立つタイプの辞書であり,肌身離さず持ち歩いて引きこなしてほしいと思いますが,教員が常用しているからといって,普通の高校生にそのまますすめてしまうと消化不良になることもありますので注意が必要です。
一般英和辞典
今までご紹介した辞書は,いずれも学習英和辞典とよばれるものであり,レベルごとに内容の差はあっても,用例や文法,語法の注記といった,英語を総合的に学ぶ際に役立つ情報が豊富に収録されています。とりあえず学習英和辞典が1冊あれば,英語を読むときはもちろん,書くときにも役立つので,辞書のコンビニとでも呼べる存在です。
一方,一般英和辞典は,英語を読むことに特化した「辞書のブティック」であり,用例や各種の解説が少ないかわりに上級学習辞典の2~3倍の語数を収録しています。『グランドコンサイス英和辞典』などがその例ですが,上級学習辞典にさえ出ていないような固有名詞や人名,専門用語などが豊富に収録されています。私が大学在学中に交換留学で訪れた,ランドルフ・メイコン大学(Randolph-Macon College)は学生数が千数百人の小規模な大学ですが,『グランドコンサイス英和辞典』には出ています。
一般英和辞典は学習英和辞典とは比較にならない語数を収録していますが,その大半は専門用語や固有名詞であり,一般語に関しては上級学習辞典でも十分です。しかし,専門的な文献などを正確に解釈する必要がある場合は,複合語や成句の充実した一般英和辞典に頼ることも多くなるでしょう。たとえば,航空関係の統計資料などを見ていると,general aviationという語がよく出てきます。『ウィズダム英和辞典』にも出ていない複合語ですが,「一般航空」とそのまま訳してしまうと,(軍用機などと対比して)民間機(航空会社)のことなのかと解釈してしまうかもしれません。
『グランドコンサイス英和辞典』を引くと「定期航空を除き,スポーツ・農薬散布飛行などを含む」という注記があります。すなわち,航空会社がスケジュールを決めて運行するフライトではなく,個人が小型機を操縦したり,宣伝や写真撮影,曲技飛行等,特定の目的で不定期に飛ばす運航形態を意味することが分かります。
★これまで2回に分けて,英和辞典には様々な種類があることをみてきました。語数が多い辞書にむやみに飛びつくのでなく,自分の英語レベルにあった辞書を選び,力がつくにしたがってより収録語数の多い辞書に買い換えていくことが,辞書を快適に使う上での鉄則と言えます。「この辞書は易しすぎるから,資格試験や難関大学の入試には対応できない」と判断し,背伸びして難しい辞書を求める高校生も多いようですが,実際には,中級学習英和辞典1冊あれば,英検の上位級(準1級,1級)でも対応できますし,英検2級レベルなら,『ビーコン英和辞典』などの初級学習英和辞典でも十分です。
…と言っても半信半疑の先生も多いかもしれませんので,次回は,過去約10回の英検で実際に出題された長文,文法問題のコーパスデータをもとに,各タイプの学習英和辞典に収録されている語がどれぐらい英検の問題をカバーするのかを客観的に検証してみたいと思います。