英語辞書攻略ガイド

(3) こんなにある英和辞典の種類(その1)

筆者:
2008年4月18日

ほんの数年前までは,書店の辞書コーナーで複数の辞書を手にとって内容を見比べている高校生,大学生をたくさん見かけました。しかし,電子辞書を購入する最近の新入生は,辞書の中身を吟味するというよりも,大きさや価格,搭載辞書の数といった外見で選んでいることが多いようです。そのためか,店員に勧められた機種を買ってはみたものの,辞書の内容が難しくて使いこなせず,携帯電話などに内蔵されている単語集に毛の生えたような辞書を使っている生徒,学生を多く見かけます。

ところで,パソコンを買うときに,店員から「メモリやハードディスクの容量は,多ければ多いほどいい」と言われた人も多いと思います。パソコンの場合,初心者であっても,メモリが多ければ快適に動きますし,ハードディスクが多ければたくさんの情報を保存できるので,多すぎて困ることはありません。しかし,辞書は「大は小を兼ねない」ことに注意する必要があります。初心者の人が語数の多い辞書を買うと,重要な語が膨大な情報の中に埋もれてしまい,探すのに時間がかかってしまいます。また,20万語以上を収録した語数の多い英和辞典(一般英和辞典)の多くは,用例や文法解説などが少ないため,学校での英語学習には不向きです。

最近は,電子辞書の普及により,レベル不相応の辞書を使っている(使わされている)高校生,大学生も珍しくありませんが,英語の辞書に関しては「この辞書はちょっと易しいかな?」と感じるぐらいのレベルの辞書で案外ちょうどよかったりするものです。1冊の辞書をずっと使い続ける必要はなく,高校3年の間でさえ,英語力が上がるにつれて辞書を買いかえることは自然なことですし,1冊の辞書が物足りなくなるぐらいの力がついたのであれば,辞書にとっても本望でしょう。

今回は,3回に分けて,実際の紙面を提示しながら,冊子版の英和辞典をレベル別に紹介したいと思います。電子辞書にはない,冊子辞書ならではの魅力を感じ取っていただければ幸いです。

初級学習英和辞典

英語が苦手な普通科高校生や,職業科高校など,英語の時間数の少ない高校で学んでいる生徒に最適な辞書です。『ビーコン英和辞典』をはじめ,電子辞書が普及してから新規に刊行された辞書が多いのが特徴です。

初級学習英和辞典は,英語に対する苦手意識を取り除き,楽しく学習できる様々な工夫がされています。発音記号に付されたカナ発音や対話文の多い用例もその一つです 。文法,語法の細かな点の注記は少ないですが,英語圏との文化的差異の解説や分かりやすい語源説明などには,時として『ウィズダム英和辞典』などの上級学習英和辞典にもない記述が見られます。

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このタイプの辞書に「易しすぎる」「語数が少ないので入試の役に立たない」という先入観を持っておられる先生方も多いようですが,実際には,高校3年間の授業はもちろん,大学入試センター試験をはじめとした一般的な入試のほとんどにも対応しています。単語の意味を調べたついでに,英語教員さえ知らないような比較文化的な蘊蓄も身につき,英語への限りない興味をかき立ててくれるので,高校生だけでなく,中高一貫の私立中学生にも最適です。

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(続く)

筆者プロフィール

関山 健治 ( せきやま・けんじ)

1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。

編集部から

新学期にあたり,英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を短期集中連載していただきます。