私たちは「百学連環」の「総論」の詳しい目次を眺めているところでした。前回は「学術技芸(学術)」までを見てみたので、続きを覗いておきましょう。まずは「学術の方略 Means」です。
「学術の方略 Means」を当世風に訳せば「学術の手段」とでもなるでしょうか。つまり、学術を行うにあたって、どのような手段(means)があるかということを論じていることが予想されます。そのつもりで小見出しを見てみましょう。
この項目の下にはさらに次のような小見出しがあります。
器械 Mechanical instrument
設置物 Institution
実験 Observation
試験 Experience
Empiric
以上の五つの項目です。見たところ、ここに並べられているのは、なるほど「手段」と言えそうなもののようです。
Mechanical instrumentは「機械装置」と言ってもよいでしょう。学術の中には科学技術方面のように、さまざまな装置を使う分野があります。昨今では、自然科学以外の領域でも、コンピュータは欠かせない機械装置の一つでしょう。
それから、「設置物」と訳されているInstitutionは、おそらく研究所やそうした施設のことだと思われます。これもまた学術活動には必要とされることが多いものです。
次の三つの項目は、一見すると分かりづらいところ。「実験」と訳されているObservationは、いまなら「観察」と言いたくなるところでしょうか。ただし、「観察」という語は、前回検分したTheoryに当てられていました。
また、Experienceは、辞書的に言えば「経験」や「体験」と訳される語ですね。これを西先生は「試験」としています。「試験」とはたぶんいまで言うところの「実験」を含意しているのではないかと思いますが、その場合、Experimentという英語が連想されます。
ここで疑問が浮かぶのは、はてさて、ObservagtionとExperienceとはどう違っていて、お互いにはどういう関係があるのか/ないのか、ということです。これは目次だけからはなかなか見えてきません。
次に登場するEmpiricは、訳語も充てれないまま置かれていますが、これは現在では英語で「経験主義者」などと訳される語です。ギリシア語に由来する語で、古代ギリシア・ローマの医師で哲学者のセクストゥス・エンペイリコス(経験主義者セクストゥス)の名前も思い出されます。経験もまた、学術を遂行する上で欠かせない手段だという意味でしょうか。
目下はまだ目次を眺めているところなので、本論の内容を先取りせずに、素直に目次から感じられることや、連想することを疑問として述べています。読者のみなさんも、これまで脳裏に蓄積してきた経験や知識に照らすと、様々な記憶が甦ると思いますので、いまのところは、そうしたことを念頭に置きながら読んでいただければと思います。
ここまでのところ西周が「百学連環」講義を進めるにあたって、意義、学域、学術技芸というテーマ、その手段について順に述べようとしていることが分かりました。あと2回で目次の残りを見終えることにしましょう。