シベリアの大地で暮らす人々に魅せられて―文化人類学のフィールドワークから―

第二十四回:おしゃれなハンティ④ アクセサリー

筆者:
2019年6月14日

写真1(銀の指輪・2018年8月オブゴルトにて筆者撮影)

ハンティの女性は指輪やネックレスを好んで身につけます。現在では価値が多様化しており、一概には言えませんが、年配の方にとってアクセサリーは単に美しい装飾品であるだけでなく、裕福さの証拠でもありました。ガラスやきれいな石のビーズ、銀はハンティの居住地周辺にはないため、交易で入手するしかなかったからです。

ハンティは、とりわけ銀の指輪を好んで身につけます。写真1のように、一本の指に複数の指輪をはめたり、複数の指に指輪をはめたりします。ある年配の女性から「私の母はすべての指に銀の指輪をつけていたよ」と、教えてもらったこともあります。彼女の母親は、貧しく指輪を購入するお金がありませんでした。しかし、指輪が欲しかったため、銀色の硬貨を3枚合わせて熱して鍛えて指輪を作ってもらったそうです。そのため、指輪の形は整っておらず、硬貨と硬貨のつなぎ目が多少残ったままでした。それを彼女は母から譲り受け、ずっと大切にしまってあるそうです。

銀の指輪と同じように、ビーズのネックレスも人気です。ハンティの女性は胸下まである長いビーズのネックレスを好みます。ガラスや石のビーズのネックレスを重ね付けしたり、長いものを二重にしたりして身につけます(第23回連載の写真参照)。写真2の各ネックレスはすべて筆者が知り合いのハンティの女性からそれぞれプレゼントとしていただいたものです。筆者が調査協力のお礼に日本で買ってきたお土産をあげたときに、返礼としてこれらをいただきました。これらのネックレスは自分が長年身につけていたもの、娘が子供のころに作ったもの、姉妹にプレゼントされたもの等らしいです。彼女らはそれぞれの思い出を話しながら、私にプレゼントしてくださいました。

 

写真2(現代のビーズネックレス・2019年5月)

現在では、多くの人はこうした既製のアクセサリーを購入するか、既製のビーズを購入して自ら制作します。一方で、まれに身近な自然の素材から作り、身につけることもあります。写真3は魚の椎骨のビーズのネックレスです。椎骨(ついこつ)から棘(とげ)を取り除き、真ん中に糸を通してつなぎます。そして椎骨のあいだにガラスビーズをはさんでつないでいます。一匹の椎骨をすべて使って作ることにこだわる人もいます。

写真3(カワカマスの背骨のビーズネックレス・2019年5月)

身の回りの素材を使ったアクセサリーは、現在でもたびたび調査地で見かけますが、あまり使用されなくなっているようです。しかし、カラフルで光沢のある交易品の素材が入る以前から、彼らが自然を加工してアクセサリーで装っていたことが分かります。

写真4(シラカバの木の皮のネックレス・2019年5月)

ひとことハンティ語

単語:Шик нипәру!
読み方:シク 二プル!
意味:ひどく多いブユだ!
使い方:Шик(シク)は「濃い」という意味です。通常は「森が濃い」(木々の密度が高い)というように使います。Нипәру(二プル)は蚊やアブ、ブユ等の血を吸う虫全般を意味します。これからの季節、シベリアの森には蚊やブユなどがたくさん出てきます。夜、それらは天幕や家屋に侵入して、人々の睡眠を妨げます。筆者がある家庭にホームステイしていたとき、たくさんの虫が家の中に入ってきました。家主はたまらなくなって、虫の多さを強調するように、こう言っていました。

筆者プロフィール

大石 侑香 ( おおいし・ゆか)

国立民族学博物館・特任助教。 博士(社会人類学)。2010年から西シベリアの森林地帯での現地調査を始め、北方少数民族・ハンティを対象に生業文化とその変容について研究を行っている。共著『シベリア:温暖化する極北の水環境と社会』(京都大学学術出版会)など。

編集部から

大石先生から受け取った、カワカマスの背骨で作ったビーズのネックレスの写真に目が釘付けでした。今まで目にしたことのない不思議な形状で、よく見ると椎骨のあいだにガラスビーズがはさんであります。身の回りの素材を生かすのも知恵ですね。大きさを揃えてデザインを決めて丁寧に気持ちを込めて作製している時間は、きっと愛おしいものでしょう。次回の更新は7月12日を予定しています。。