フィールド言語学への誘い:ザンジバル編

第12回 フィールド言語学らしさをもとめて―結びに代えて―

筆者:
2018年10月19日

この連載のタイトルは、「フィールド言語学への誘い:ザンジバル編」となっています。しかし、振り返ってみると、言語学の専門的なことというよりは、フィールドワークやザンジバルに関するよもやま話の方が多くなってしまいました。

言語学研究にとって最も重要なものは分析対象となる言語データです。フィールド言語学では、実際にその言語を話すインフォーマントのところに行ってデータを集めますが、インフォーマントからいかにデータを得るかがフィールド言語学の大変な部分であり、フィールドワーカーの腕の見せ所です。

調査許可取得やフィールドへのコネづくりから始まるインフォーマント探しといった困難をのり超えて、調査を始めることができたとしても、調査がうまくできるとは限りません。例えば、インフォーマントがなかなか口を開いてくれなかったり、途中で居眠りを始めたり、調査対象の言語でしゃべってくれないということはよくあります。こうした場合は、どうしたらインフォーマントと仲良くなれるのか、いかにインフォーマントを退屈させないか、いつも通り自然に話してもらうにはどうすればいいのかといったことを考えなくてはいけません。

フィールドワークを円滑に行うためには、インフォーマントやコミュニティの「ルール」を覚えておくことも重要です。例えば、ザンジバルでは、挨拶の決まり文句を覚えておかないと、会話がはじめられません。また、細かいことですが、人に接したりモノを渡すときは必ず右手というのも覚えおくべきことの一つです。どんなお土産が喜ばれるか、お礼はどれくらいが適当かといったことも、相手や地域に合わせる必要があります。

良いフィールドワークは、言語学の専門知識を身につけるだけではできません。研究と直接関係なさそうなことにも頭や気を使わなければならないというのはフィールド言語学の特徴の一つといえるでしょう。

では、研究に関わる部分で「フィールド言語学らしいこと」というのはないのでしょうか。実は、私自身もこのことについてずっと考えています。フィールド言語学者は、データを集めるため、他の言語学者よりもずっと長い時間、人々の普段のおしゃべりに耳を傾けています。実際に言語が使われている様子を間近で観察できるというのは、フィールドワーカーの特権といえるものかもしれません。例えば、既に話者のいない「死んだ言語」のおしゃべりは、生で見たり聞いたりすることなんてできないのですから。私はここにフィールド言語学研究の鍵があるのではと思っています。そして、その鍵を求めて、またフィールドにおしゃべりを聞きに行くのです。

トゥンバトゥ島の港

【お礼】この連載は、今回が最後です。またお目にかかる機会があれば、そのときはどうぞよろしくお願いします。私のフィールドであるザンジバルにも、ぜひ遊びにきてください。

筆者プロフィール

古本 真 ( ふるもと・まこと)

1986年生まれ、静岡県出身。大阪大学・日本学術振興会特別研究員PD。専門はフィールド言語学。2012年からタンザニアのザンジバル・ウングジャ島でのフィールドワークを始め、スワヒリ語の地域変種(方言)について調査・研究を行っている。

最近嬉しかったことは、自分の写真がフィールドのママのWhatsApp(ショートメッセージのアプリ)のプロフィールになっていたこと。

編集部から

最終回の今回は、古本さんが「フィールド言語学」についてどのように考えているのかについて書いていただきました。ザンジバルに行くようになってから6年、フィールドで言語学をすることで必要となるものはわかってきましたが、まだわからないことも多くあるようです。フィールドだから得られるもの、フィールドでしか得られないものにこれからも向き合われるのでしょう。

この連載が読者のみなさんに「フィールド言語学」に興味を持っていただくきっかけになればうれしく思います。