1980年代には、やはり漫画で、「本気(まじ)」を主人公の名前に用いた作品が登場する(1987)。これはそのまま題名、書名にも用いられており、その一般への影響は衝撃を伴って凄まじいものがあった。
その漫画の本編では、初めのころに、「本気」と書いて「まじ」と、主役の少年がみずから名乗っているシーンがあるが、「もとき」が「本名」ともいう。私の決して好んで読んだジャンルではないけれども、事実の捕捉のために必要なので注文し資料として読んでみた。「不良」を賛美しようとは思わないが、なるほど一部の心をとらえる作品なのだろうと思う。これは、実際に映画化もなされたほどで、多くの人々の印象にこの表記とともに刻み込まれた。
これを、「本気」という「ホンキ」との読みが安定している表記に、「まじ」という別の語形をかぶせた行為によるもの、と見るならば、当て読みとみなすことも可能である。『当て字・当て読み 漢字表現辞典』に、いくつか引いたとおり、漫画では、その後、ジャンルを超えて、しばしばこの表記が吹き出しなどコマの中に現れつづける。これを世に広めたのが立原あゆみであったことはだいぶ忘れられてきており、すでに一人歩きを始めているようだ。
芸能界では、とくに歌謡曲で歌詞にこれがときどき登場する。曲名では、本田里沙「本気(マジ)!」(阿久 悠)が1989年3月8日発売で早い(裏面に「本気2」もあり)。
テレビのテロップ、さらに小説や雑誌にも使われるようになった。今年は、AKB48のドラマ「マジすか学園」でも用いられたとのこと。その使用範囲は、あらゆるメディアにわたっており、ゲームやケータイの待ち受け、Tシャツにも登場する。
「まじ」と読ませる「本気」は、WEB上でも多用されており、大きな影響力をもつ中川翔子も用いており、再生産と固定化に一役買っているのであろう。書名として、あるいは広告、チラシやポスター、暖簾などにも現れるのは、よく知られていて、かつキャッチーで印象にも残りやすいという効果のためだろう。
当て字は、単にことばに漢字を当てた、というものだけではない。漢字を借りることで何かを表現したい、さらに新しい表記を作ることで何かを伝えたいという意図が感じられることさえある。そこには言語外の情報まで盛り込もうとしているものもあるようだ。正しい、というよりも、面白い、あるいはカッコいいという意識にも支えられているのであろう。
中学校では、学級通信の名前になっていた、同じくクラスのスローガンになっていたという実例もあり、学校現場においても、生徒たちにある種の意欲を喚起するために浸透しつつあるようだ。ほかにも、高校の先生が言っていた、塾の先生も言っていた、と証言する学生がいる。日本では、友達同士でやりとりするような手紙でも、小学生、遅くとも中学生あたりから使われていたそうだ。ある学生は、「どこで知ったかは覚えていないのに、読みや漢字はミスらずに覚えているのは不思議」という。
日本語学校で習ったという留学生もいたが、それ以前にこれを知っている外国人もいるようだ。海野凪子の描く漫画オタクのフランス人ルイ君のように、日本語学校でその「知識」をつい披露してしまう留学生も現れるほどである。
アメリカで活躍する神田瀧夢(かんだ ろむ)は、ABCテレビにおいて、架空の日本のバラエティ番組「本気(まじ)で」の司会役を務めており、その番組中のセットにも「本気で MAJIDE」とある。日本以外にも、この表記は広まりつつある。