前回の「02娘01」などは、プリクラなどで健在のようだ。
「仲仔」(なかこ)もまた仲良しの意で使うそうだ。さすが現役の中2女子だ。しかし、大学生になると、もう古い、誰も使っていない、なんていう。が、それはそういう層を脱したための感想にすぎない。このように同時代人であっても、僅かに層を異にするだけで、意識は実態と乖離するのだ。古くなったのは表記の方ではない。情報が氾濫する現代においても、このような誤解がはびこる。まして古代においては、同時代人の発言といえども、扱いには十分な検討と注意が必要なことがうかがえるであろう。
一番画数の多い漢字は何か。2人が質問してきた。多感な小学生も興味を持つようでよく尋ねてくるテーマだ。私も、当時は知りたいことの一つだった。「たいと」だか「おとど」という男子中学生がいた。入門にふさわしい60画台から、70画台、80画台の字をいくつも書けば時間が長びいてしまうので、ちょうど上梓したばかりの『漢字の現在』を、図書館で読むことをおススメしておくにとどめた。受験勉強も始まろうかという今、読んでくれただろうか。
辞書は、便利なものだし、有益な情報を得やすいものである。しかし、漢字に関しては情報が満ち溢れているとは限らない。ことに字体についてはそうで、世間に出回っている「龍」と「竜」についても、限られた紙面の中で、旧字体、新字体などのレッテルしか書かれていない(それもときに記号化されている)ことがほとんどだ。国語も漢和も、これらの字を中黒「・」で結んだり、丸括弧「( )」で示したりするくらいで、現実のコノテーションやコロケーションについては情報が皆無か、まれに付されたとしても極めて少ない。
大きく分けて、この2つの字体が世上での用例に偏りを持っている。ファンタジー小説では、両字体を別の物を指すために区別して使っているものさえもある。それぞれの字体と、そうした文脈の中で接触する。
これらの事象が個々人の意識と違和感なく結びつき、みずからも分けて使用しようとする意識を醸成し、実際に使ってみるという経験を生むのだろう。内省により次の意見が飛び出した。世代的に見て、ドラゴンボールやポケモンの影響もありそうだ。
大きい・小さい
長い・短い
本物でかっこいい・かわいいキャラクター
「きょうりゅうのみぶんの差」というのも、単語の選び方が中学生らしい。「本物」というのは、実在を意味するのだろうか。
強い・弱々しい
いかつい・かわいい
かっこよさそう・弱そう
怖い・やさしい
悪い(災害をもたらす)・悪くない
ストーリーやジャンルと絡めるものもあった。
伝説・昔話
伝説・生物
神話・水の中
最後の記述の後者は、かつてのネッシーなど実在しそうだというイメージなのだろうか。
名詞と固有名詞という、使用される品詞の差を見出した生徒もいる。
想像上・地名などそれ以外
名前で使う・使わない
名前・地名
音訓という読みの差を意識した解答もあった。
りゅう・たつ
常用漢字表に基づく字体の「新・旧」に言及するものもあった。「字が新しい・古い」としたのは、誤解ではなく、順不同に記しただけかもしれない。大学生となると、字が発生した時期の古さの差にまで言及する者がある。別字意識とは異なる認識といえる。
旧字・新字
そして、洋の東西で姿が異なることと絡めた答えもいくつも提示された。
東洋の龍・西洋のドラゴン
中国の羽なし・ヨーロッパの羽あり
外国・日本
下記もそのイメージの一端であろう。大学生では、竜は火を噴くなどという意見も出る。先の大小・強弱、そしてジャンル、品詞、音訓、字体までが相互に連関をもっているように思えてくる。
空飛ぶ・歩く
つばさが生えてて大きい・青竜
うろこが多い・少ない
中には、逆のイメージを記す生徒も僅かにいたが、「ボスクラス」というだけの記述は「龍」のような気もするが、メディアによっては「竜」かもしれない。実際にその瞬間に思い描いたのはどちらだったのだろう。「シェンロン」とだけあるのは、アニメ「ドラゴンボール」に登場する、その名の通り中国風の神龍のことだろう。これは、上記の傾向から、「龍」のほうを指したものと思われた。