先日、女子の大学生が、横書きの文章は読むが、「縦書きは読まない!」と、クラスの男子に断言していた。そう言い切っていたのが耳に残った。そういえば国語系の科目名や内容をもつ講義でも、ノートは横書き派が優勢となってきた。中学くらいまでと違って、国語用のノートも特に売ってはいない。パソコン画面の影響も強いのだろう。
アラビア数字が漢数字になる、ローマ字が90度横転する、長音符「ー」や引用符「“ ”」の向きや形が変わる、句読点「、」「。」や拗促音符「っゃゅょ」などの位置が変わる、そして「事」のはね方など書風、字形、そして「歳」のように字種・字体もこうして変わることがあるという事実は知っていた。書字方向にまで多様性と意味・雰囲気付けがなされる、さすが日本だと思っていた。しかし、その守旧的、復古的ともいえる努力が、これからを担う若い世代の読者を遠ざけるどころか、避けさせることまであるとは、気付かなかった。
中学生の話に戻ろう。
「本気と書いて?」
「マジ」と、教室のところどころから声が上がる。こうなると男子が元気だ。漫画で見たから知っているという。「まじ」に「本気」という表記も、国語辞書に載せてほしいと言う。そうかな、と手を挙げてもらうと、けっこうな数になる(1/5くらい)。面白くなってきたようで、隣の子にも手を挙げるように、突っついてけしかけている。私の責任で、『当て字・当て読み 漢字表現辞典』に(出典付きで)載せたことは当然だが、語が集団語(位相語)であり、それも集団表記(位相表記)であり、しかも私的な場面に局限された表記(場面的な位相表記)なので、まだ一般の辞書に載せるのは難しそうだ。
「本気」に「バカ」と書いたのは、馬鹿力との混淆か、漫画の「桜木」と書いて、との混同によるものだろうか。
「秋桜」と書いて、コスモスという読みは、山口百恵のヒット曲で一気に広まったものだが、『新明解国語辞典』には、第7版への改訂よりも前から、すでに載せられていた。これも、「あきざくら」や「シュウオウ」という古風な読みではなく、「コスモス」と読める生徒が多い。20名くらいが声を挙げただろうか。義務教育にある現代のこの子たちは、いったい、これをどこで知ったのだろう。国語の教科書で見たという学生も案外いるので、教室にまで浸透している可能性がある。
さらに、集団表記に入っていく。「2コ1」(にこいち)を、知っている人、使ったことがある人と聞くと、女子に限られていく。1/3くらいが挙手する。二人で一つという意、仲良しの別名で、やはり彼女たちの位相語であり、位相表記だ。手書きでは「コ」は一筆書きだ。受験に備えて、「ユ」とはっきりと区別が付くように、学校で、そう書きなさいと指導されたという学生もいた。
表記では、「2個1」もいるがどこか味気ない。
「2仔1」
「2子1」
「2co1」
「二個一」
とバリエーションが出る。グループごとに変異が生じているのだろうか。中には、
「娘」
「こ」
「」
「仔」
「子」
「コ」etc…
といくつも列記してくれた女子もいた。観察眼がかなり鋭そうだ。「0」に斜線「/」を入れることは、2乗マークの進化形「02」をパソコンの一部の画面のように「」と手書きすることと共通している。
「2姫1」
と書いた女子もいた。「姫」の音読みは「キ」だが、意味からヒメのような「こ」ということで読ませているのだろう。当て字、裏返すと広い意味での当て読みとも言えよう。