東京から北京へ。実は初めての首都北京入りとなる。1週間違いで後に韓国の済州島に行くので、それとごっちゃにならないようにしないと危ない。実際に事務局へメールを誤って出してしまったこともあった。1週間で、2つの異なる発表を、2つの外国でしなくてはならなくなった。重なる参加者もいるそうで、混乱は避けたい。こういうときに弟子(di4zi ディーズ)が来てくれることはありがたい。
空港内で、「中国、四国」というアナウンスに一瞬ビクッとする。国内線だがドキッとしてしまうのは、日中ともに中の国を指す同じ地域名なので仕方ない。空港の免税品店ではLANCOM(ランコム)などの香水の甘い匂いが漂う。もうすでに日常から遠く離れた世界に来ている。
これから乗り込む機体を見ると「中國國際航空」と繁体字が記されている。これは中国の法令に違反するようだが、国際線だから特別な措置なのだろうか。「請注意」で始まる空港での中国語によるアナウンスは、ベトナム語と共通する語順である(ベトナム語ではこの「請」には固有語が来る)。
機内では、隣に「空中小姐」が座った。珍しい機会なので、中国語で「昼ご飯はこの飛行機で出るのか?」と尋ねてみた。一言、「有(イオウ)」とあさってのほうを指差した。これが中国であり、中国語というものだ。4時間近くのフライトはくたびれるので、リクライニングをしようとするが、運悪くこの座席のボタンそのものがなくなっていた。
空中小姐はCA、キャビンアテンダントのことで、韓国語ではステュオディスと今でもいっている。この「オ」が口を大きく開き、強く響いたことがあった。韓国語で言うとカッコいい。ついでにサンドイッチも、韓国人が発音するとセンドゥウィッチとセが高く決まる。あの韓国からの留学生がたまたま少し英語風に発音したものだろうか。「三明治」(サンミンジー)というサンドイッチに対する中国語は日韓ともに面白がるが、中国人は子供のころからだそうで、別に何とも思っていないそうだ。かつては「三堆之」(サンドゥイジー)というより原音に近い音訳もなされていた。
「女士們、先生們」、機内アナウンスは、レディース&ジェントルメンの順序。さっきのスチュワーデスがもう一人と一緒に、「小心(シアオシン)、小心、小心、小心!」と言いながら、食事を運んでくる。
トイレを意味する「厠所」「洗手間」は簡体字になっている。その中の「馬桶」は蓋の着いた便器のことで、何やら古めかしい2字だ。女子大に勤めていた当時、「弁当」を「便当」と台湾人留学生が日本語作文で書いてきた。間違えるにもほどがとその時は思ったが、そちらではこの表記で、しかも日本でも江戸時代には「便桶」という表記さえも使われていたことを後で知った。「手紙」も中国ではトイレットペーパーというのは有名な話だが、韓国語では「便紙」(ピョンジ)が郵便の紙で手紙となる。これも中国人が見るとトイレットペーパーにしか見えない。品のない暗合も、漢字の多義性と地域性のもたらすいたずらだ。