漢和辞典は国語辞典とは異なり,漢字そのものを配列するためには,種々の方法をとらざるを得ない。声に出して読めない場合も少なからずある。こうした状況を避けるためには,漢字の読み(発音)を示す必要がある。これが漢和辞典における各種の検索法となって現れる。
漢和辞典を開いたときに,まず目にするのが「部首索引」であろう。これは,学習用辞典の場合には,一般に表紙裏に印刷してある。「岬」「鳴」「進」などは,部首が比較的簡単にわかる。こうした漢字については,この索引を使って検索する。しかし,「奈」のような漢字の場合には,部首索引に「大」も「示」も見られる。また複雑な字形をしているものであればなおさらやっかいである。いわゆる教育用漢字(学年別配当表の漢字)の場合は,比較的字形が簡単であるのでわかりやすいが,それ以外の漢字の中には,部首を決めにくい場合も少なくない。そうなると,考えられる部首のすべてにわたって検索する必要に迫られることもある。
たとえば,小型の漢和辞典の中で,総画数の特に多い漢字としてあげられているものの中から例を挙げてみよう。総画数29画の常用漢字のうち,書くことはなくとも目にすることはあるであろう,「鬱」をあげると,漢字の構成上,「木」「缶」「鬯」「彡」「冖」の5種類から成る漢字である。これらの5種類はいずれも部首としてあげられているものである。しかし,いずれに属しているかは,わかりにくい。結局どの部首で引くかが明確にならないことになる。しかし辞典中の所在をページ数で示し,また辞典によってはあわせて検字番号(漢字番号)を併記してあるものもある。現行の常用漢字であるから読めるのが前提になる。その場合,音「ウツ」を利用して,音訓索引により検索する。このとき,音ではなく訓を用いることができればさらに簡便である。もしこれが常用漢字ではない場合には,読めないことも当然あり得る。そこで総画索引が使われることになる。学習用漢和辞典によっては,総画索引において,部首に当たる部分に色をつけ,たとえば赤く色をつけたりする。
漢和辞典の場合は,いくつかの索引を使い分けながら,該当字を探すことになるが,これが国語辞典であれば,周知の通り非常に簡単である。一般には,語をひらがな,語によってはカタカナで示し,アイウエオ順に示してあるからである。また辞典(研究社から復刻された『ローマ字で引く国語新辞典』など)によっては,アルファベットによりABC順に示してあるものもある。これらは,見出し語が,「かな」もしくはローマ字で示されているためである。日本語の漢字の場合には,国語辞典のようにはできない。漢和辞典に付されている,音訓索引を利用してみると理解できようが,同音の漢字が大変多いからである。もちろん,「キコウ」という語を仮名やローマ字で検索することになると大変である。しかし国語辞典ではさほど大変という印象は受けない。これは,キコウの語の後にそれぞれの語の漢字表記形が示されているからである。たとえば,「キコウ 機構」とか「キコウ 気候」とかといったようにである。ここに漢和辞典の音訓索引との違いが見られる。このキの場合,漢和辞典によっては一ページ以上にわたって漢字が並んでいるのである。この中から,求める漢字を探し出すことは容易ではない。そうした場合には,他の索引を使った方が手早く求める漢字を探し出せることも少なくない。それぞれの索引の特徴をつかんで使い分けることになれるのが肝要である。このとき,個々の漢字に漢字番号(検字番号)が付されていると,一層便利になる。該当漢字の,辞典における所在を知ることができても,本文に非常に多くの漢字が示されている場合には特にその索引の有用性を感じさせられる。たとえば,一ページに多くの漢字項目が示されている場合(たとえば,『新明解現代漢和辞典』p.1005,もしくは『角川新字源 改訂版』p.757)には,同部首,同画の漢字が配列されている場合も多い。こうした時には,番号が付与されていると,瞬時に求める漢字を見つけ出すことができるのである。(次回は総画索引)