今回で、この連載は最終回となります。ここまで読んでくださった方は、どのような感想を持たれたでしょうか。「カタカナ語と英語は同じじゃないんだ」と思っていただけたならうれしいです。
これまでもくり返しお伝えしてきましたが、「日本語の単語」を「英単語」に置きかえるだけでは、英語にはなりません。片言でもコミュニケーションがとれればよいということならそれで十分でしょう。でも、英語を「きちんと話せるようになりたい」「使えるようになりたい」という目的で勉強するのであれば、それでは足りませんね。しっかり勉強したいという方のために、今日は英語学習のコツを、改めてお伝えしたいと思います。
そのコツとは、「知っている単語でも必ず辞書を引いてみる」ということです。あなたが勉強しても勉強してもなかなか英語が話せるようにならないという場合、それは「知っている単語」がただ単に「知っている」だけで、「使える単語」にはなっていない、ということが原因かもしれません。
「知っている」と「使える」は違う
あなたは「憂鬱」という漢字が読めますか? これを読んでいるのが日本語が母語の大人の方である場合、おそらくほぼ全員読めるでしょう。では、これが読めた方、「ゆううつ」を漢字で書いてみてください。どうですか? 書けないという人が、かなり多いのではないでしょうか。
このことは、ちょうど「その単語を知っているけれど使えない」というのと同じです。「憂鬱」を読むのはかんたんだけれど、「憂鬱」を書くためには、読むときよりも、もっとずっと多くの労力と情報量が必要なんです。情報を受信するだけなら、単にそのことばを「知って」いればOKです。でも、情報を伝えるためにことばを「使う」となると、細部まできちんと認識していなければならない、ということなのです。
「使える」にするには辞書を
意外に思われるかもしれませんが、「知っている単語」を「使える単語」にするために必要なことは、多くの場合、辞書に書いてあるんです。
みなさんのうちの多くは、辞書は「意味を調べるもの」だと思っているのではないでしょうか。もちろん意味を調べるのにも使えますが、それだけではありません。その単語を「使う」ための情報も、実はかなり細かく書いてあるんです。
たとえば、『ウィズダム英和辞典』のdryのうち、形容詞の[7]を見てみましょう。
「感情を示さない,無感情の; 冷たい,冷淡な」と書いてありますね。多くの方は、これを読んで満足し、dryは日本語のドライの「感情的にならない性格」という意味を表せる、と考えるでしょう。でも、そうではありません。実は、英語が使えるようになるために見るべき情報は、「記号」や「カッコの中」にこそあるのです。
まずは((書))の部分です。((書))というのは、書き言葉だということです。やわらかい話し言葉として使うことは少なく、文学や、固い文書などで用いられる表現だ、ということですね。それから次のカッコには、〈声などが〉とありますね。これは、dry voiceとかdry laughというようなとき、冷淡でそっけないようすを表す、ということです。あくまでも〈声などが〉であって、「人の性格や態度などが」ドライだ、というときに使うわけではないのです。
辞書と翻訳サイトは違う
dryという1単語だけをとっても、しっかり辞書を読み込むと、あなたの知らないことがたくさん書いてあると思います。おそらく、本当にたくさんの知らなかったことが書いてあるはずです。
だまされたと思って、お手持ちの辞書でdryを引いてみてください。そして、どの意味が日本語のドライと共通で、どの意味が英語でしか使われないものなのか、確かめてみてください。日本語では使えない意味の方が多いということに気づくのではないでしょうか。
それから、「記号」や「カッコの中」までよく読んでみましょう。そうすると、dryには形容詞と動詞の用法があり、さらにそのさまざまな意味を「正しく」使うために助けとなる情報が、たくさん書き込まれていることがわかります。
辞書を使っても翻訳サイトを使っても、同じようにその英語の意味がわかる、と思っていませんでしたか? 翻訳サイトでわかるのは、単にその語を日本語に置き換えただけのものです。意味を読みとるだけなら、それで十分なときもあるでしょう。でも、英語が「使えるようになりたい」「話せるようになりたい」というなら、その翻訳サイトが吐き出した意味を知るだけで上達するということは、ありません。
大事なことなのでもう1回言います。辞書と翻訳サイトは、違います。情報を受けとるのではなく、発信するためには、詳細で、精度の高い情報が必要です。それが書いてあるのが辞書なのです。しっかりと使いこなしていきましょう!
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〈出典〉
- 三省堂『ウィズダム英和辞典 第4版』 iPhoneアプリ「辞書 by 物書堂」版 (2019)