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第43回【在宅避難】ざいたくひなん

筆者:
2023年3月27日

[意味]

災害が起きた際、避難所へ避難せずに自宅などで生活を続けること。

[関連]

分散避難

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災害時、主に自宅など避難所以外で生活することを「在宅避難」といいます。安全を確認したうえで自宅にとどまったり、親類宅などに身を寄せたりするなど形はさまざまですが、家屋の損壊やインフラが停止するようなことがあれば、避難所と同様に生活支援が欠かせなくなります。

「在宅避難」をよく目にするようになったのは、コロナ禍以降でしょうか。ビジネスデータベースサービス「日経テレコン」で調べたところ、日本経済新聞での初出例は2008年4月24日付朝刊の新潟経済面「自宅2階安全な場合も 洪水避難地図 長岡市が改定」という記事。豪雨による水害が起きた際に自宅の2階へ避難することを「在宅避難」としていました。「自宅に避難する」のではなく、「自宅で難を避ける」意味といえます。

新聞記事での出現数はその後しばらく0件が続きますが、東日本大震災の2011年ごろからポツポツと見え始め、2020年に12件と急増。台風や豪雨が頻発し避難を余儀なくされるケースが増えるなか、避難所に大勢の人が集まり3密(密閉・密集・密接)状態になるのを避けるため、「在宅避難」など人が分散して避難する動きが見られるようになってきました。

単に自宅にとどまることが「在宅避難」ではありません。災害発生後、まず自宅が安全な状態であることが必須になります。日ごろからハザードマップ(災害予測地図)の確認や食料や水の確保、簡易トイレなどの備えも重要です。「在宅避難」をするには、孤立しないよう地域の人たちと連携をとるのも大事なことだと思います。

【分散避難】の出現記事件数

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

毎月最終月曜日更新。