タイプライターに魅せられた男たち・番外編第13回

タイプライター博物館訪問記:伊藤事務機タイプライター資料館(2)

筆者:
2016年3月3日

伊藤事務機タイプライター資料館(1)からつづく)

伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.10」
伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.10」

伊藤事務機タイプライター資料館には、「Remington Standard Typewriter No.10」も展示されています。レミントン・タイプライター社が1908年12月に発売したモデルで、同社初のフロントストライク式タイプライターです。プラテンの手前に配置された42本のタイプバー(活字棒)は、それぞれが42個のキーにつながっていて、キーを押すと対応するタイプバーが、プラテンの前面に印字をおこないます。フロントストライク式タイプライターの特徴は、プラテン前面の紙に印字がおこなわれるという点にあり、印字された文字がオペレータから直接見えるのです。

伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.10」のキーボード左半分
伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.10」のキーボード左半分

キーボードは、いわゆるQWERTY配列で、左下に「SHIFT KEY」と「SHIFT LOCK」が配置されています。「SHIFT KEY」を押すとプラテンが持ち上がって、大文字が印字されます。「SHIFT KEY」を離すとプラテンが下がり、小文字が印字されます。「SHIFT LOCK」は「SHIFT KEY」を押しっぱなしにするためのキーです。

伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.10」のキーボード右半分
伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.10」のキーボード右半分

キーボードの右下には「SHIFT KEY」が、右上には「BACK SPACER」が配置されています。「BACK SPACER」はプラテンを1文字分戻すキーで、これにより、文字の重ね打ちが容易になっています。

伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.10」の前面
伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.10」の前面

キーボードの奥には「Tab」キーが5つ並んでいて、6列の表を作るのが便利なようになっています。「Tab」キーの左上にある銀色のツマミは、インクリボンの赤と黒を切り替えるためのもので、これにより「Remington Standard Typewriter No.10」は、赤・黒の2色印字が可能となっています。なお、伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.10」は、製造番号が174829と記されており、1911年頃の製造だと考えられます。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。木曜日の掲載です。