タイプライターに魅せられた男たち・第2回

クリストファー・レイサム・ショールズ(2)

筆者:
2011年9月1日

ショールズの最初の特許は、『ページ番号を印字する機械』で、ソレーとの共同特許でした。ショールズの2番目の特許は、『靴ブラシの改良』でした。『靴ブラシの改良』の特許は、特許公報の1866年8月14日号に掲載されましたが、同じ8月14日号の14個あとの特許に、ピーラー(Abner Peeler)という人物が発明した『書字印刷機』の特許が掲載されていました。

1866年6月19日付のピーラーの手紙

ピーラーの『書字印刷機』は、小さなハンコを1文字ずつ押していくことで、活字による文章を書くことのできる機械でした。自由な文章を印字できるので、この機械が実用化されれば、ソレーとショールズの『新聞に宛先を印字する機械』は実質的に不要になってしまうし、もっと色々な用途にも使える可能性がありました。ただし、ピーラーの『書字印刷機』は、印字に手間がかかり過ぎて、手書きよりもスピードが遅いというシロモノでした。

ショールズは、『ページ番号を印字する機械』の改良再改良を続けながらも、ソレーと共に新たな発明に取りかかりました。クラインシュトイバー(Carl Kleinsteuber)の工房で、グリデン(Carlos Glidden)やシュバルバッハ(Matthias Schwalbach)といった技術者とも出会い、ショールズの発明熱はどんどん高くなっていきました。そして1867年7月のこと、ウェスタン・ユニオン・テレグラフ社ミルウォーキー支局のウェラー(Charles Edward Weller)のもとを、ショールズは訪ねています。電報の清書に使うカーボン紙をわけてほしい、というのです。何に使うのかとウェラーが訝しんだところ、ショールズは、明日オフィスに来てくれれば見せるよ、とだけ答えました。

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翌日、ショールズの収税事務所でウェラーが見たものは、モールス送信機の電鍵の先に、活字が1つ取りつけられた棒が乗っかっている、妙な機械でした。電鍵を押すと活字棒が跳ね上がり、ガラス板に当たります。ガラス板裏側の活字が当たる位置には、小さく切ったカーボン紙が貼り付けられていました。カーボン紙の下で白い紙テープを左に動かしながら、何度か電鍵を押すと、紙テープの表面に「wwwwwwwwwwww」という文字列が印字されました。実験は成功でした。あとは電鍵の数を増やして、アルファベット26種類や数字が打てるようにすればいいはずです。

(クリストファー・レイサム・ショールズ(3)に続く)

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

安岡孝一先生の新連載「タイプライターに魅せられた男たち」は、毎週木曜日に掲載予定です。
ご好評をいただいた「人名用漢字の新字旧字」の連載は第91回でいったん休止し、今後は単発で掲載いたします。連載記事以外の記述や資料も豊富に収録した単行本『新しい常用漢字と人名用漢字』もあわせて、これからもご愛顧のほどよろしくお願いいたします。