ソウルに行くのは、久しぶりだった。서울(Seoul)の中国語名は、国際問題化を経て「漢城」から韓国側の主張する「首爾」(ショウアル)に変わった。これは中国語の固有名詞を決定する主体を巡る議論でもあったが、韓国人通訳者が中国語に訳すときには旧称もまだ使うことがあるようだった。日本では、原題を活かした「京城スキャンダル」という韓国ドラマもテレビで放送されていた。数百年の歴史を持つ語が、時を経て意味付けも変わり、甦ってきている。金浦空港内の待合所では、「東京」をトンギョンと発音することも、韓国人の男性による自国の旅客向けの館内放送のアナウンスで聞かれた。これも漢字を介した古風な表現となったものだ。まだ、韓国語内にも、漢字の影が色濃く残っているといえるだろうか。
ドラマや映画、ポップスなど韓流ブーム、これを「かんりゅう」と言うと、「はんりゅう」と親切心からか言い直してくれる人の現れる時代となった。やはり新規な読み方を知っていることの方が価値が高いと思われるようだ。
仁川/成田は、私の経路からは遠回りなので、時間の関係もあって羽田/金浦間とした。日帰りというのも辛いし、移動に時間とエネルギーを要したのにもったいない。出発当日には難しい会議がある。また早く帰国すれば、登壇という仕事もあるが、生身なので残念だがご縁がなかったものとお断りする。予定の重なりで不義理が増えてきてしまった。
2月初めのソウルは寒い。通訳役を引き受けてくれたその人と会うときは、どこでもたいてい寒い。中国では長春で、マイナス30度ほどまで下がった。ソウルもマイナス17度との報道があったが、実際にはマイナス7度程度で収まった。
国際会議にお招ばれしたものだが、久々の韓国、とにかく漢字を見つけたら、全部写真かメモに残す決意をしていた。すでに連載にも記したベトナム以来のことであり、漢字があるかないかという現象としての事実の底にある、あるいは先にあるものを見出したい。ベトナムとの漢字の残り方の共通点と差異とをはっきりとさせてもみたい。ここで、主な点を紹介していきたい。
・機内で
時間帯の関係で、行きも帰りも大韓航空となった。それはそれで楽しそうだ。
スチュワーデスは、日本ではキャビンアテンダントなどと改称されたが、韓国では今なお「ステュオディス」というように呼ぶそうだ。種類の多い母音と子音を活用して、英語にわりと近い発音となっており、これを授業中に生で聞いた中国人男子も、カッコイイと、思わず声を上げたことがあった。
韓国女性は、肌がキレイで北東アジアでは最も美人ということで有名なのだと、中国のモンゴル族の先生が述べた。たしかに背が高く、色も白いような気もする。韓流風の人、日本の芸能人のような人などはいても、この大韓航空機内には、日本人スチュワーデスがいなかった。日本人は、概して生真面目だが、韓国人がときに発揮するような緊張感が弱いように思われる(それだけ柔和とも言える)。ついでに、中国人キャビンアテンダントが、登場時刻間際に、笑いながら何人かで空港内を走って「急いで!」「間に合った」と中国語で言いながら機内に駆け込んだ姿も印象深く心に残っている。
人間だけでなく、文字も観察し、そこから考えを広げないといけない。「비상구(bisangku ピサング) 非常口」、大韓航空機なのに「非常門」ではなくなっていた。機内のトイレには、まとめて漢字があった。「(押)」「(引)」は、日本人向けなのか記号的な使用である(写真参照)。「嘔吐袋」「淑女用 衛生帯」。これらは日本語なのだろうか。日韓の間には同形語が極めて多いので、誰を対象に書かれた文字なのか、何語で読まれることを想定したものなのか、判断しにくいところが中国やベトナムとは異なる。