(前編から続く)
平成28年9月、東京都目黒区のとある夫婦に長男が生まれました。夫婦は長男に「渾」と名づけ、目黒区役所に出生届を提出しました。しかし、目黒区役所は「渾」ちゃんの出生届を、受理しませんでした。「渾」が、常用漢字にも人名用漢字にも、含まれていなかったからです。
これに対し、「渾」ちゃんの両親は、東京家庭裁判所に不服申立[平成28年(家)第6849号]をおこないました。「渾」は、戸籍法第50条でいうところの「常用平易」な文字なので、「渾」と名づけた出生届を受理するよう目黒区長に命令してほしい、と申し立てたのです。「渾」は12画の文字で、「輝」「揮」「運」と較べても「平易」な漢字です。「渾身」という熟語は、新聞の記事本文では使われていないものの、インタビュー記事や広告では頻繁に使用されていて、いわば「常用」されています。加えて「渾」は、平成12年の漢字出現頻度数調査での出現回数は191回(3047位)だったものの、平成19年の漢字出現頻度数調査では605回(2587位)と、明らかに出現頻度が上がっていました。これらをもとに両親は、「渾」が「常用平易」だと申し立てたのです。
平成29年1月13日、東京家庭裁判所は両親の主張を認め、「渾」ちゃんの出生届を受理するよう、目黒区長に命令しました。「渾」は、戸籍法第50条でいうところの「常用平易」な文字であり、これを人名用漢字に収録していない戸籍法施行規則の方がおかしい、と審判したのです。しかし目黒区長は、この審判を不服として、東京高等裁判所に即時抗告しました。「渾」の「常用平易」性をめぐる争いは、東京高等裁判所の抗告審[平成29年(ラ)第312号]へと移りました。
平成29年5月16日、東京高等裁判所は目黒区長の抗告を棄却、「渾」ちゃんの出生届を受理するよう、あらためて目黒区長に命令しました。両親の「全面勝訴」です。東京高等裁判所も、以下のように判示して、「渾」を「常用平易」な文字だと認めたのです。
「渾」は、平成16年改正において参考とされた漢字出現頻度数調査(2)において、出現順位3047位、出現回数191回であったが、平成19年において調査対象書籍数を二倍程度に広げて実施された同調査(3)においては、出現順位が2587位、出現回数は605回となり、その順位は「卯」(昭和26年人名用漢字に加わる。)、「惟」(昭和56年同)、「稜」(平成2年同)、「俱」(平成16年同)、「塡」(同)を上回ったことが認められる。平成16年改正では、出現頻度3012位以上のJIS第1水準漢字は無条件に人名用漢字とされたのであり、調査結果による出現頻度でみても、「渾」は現在人名用漢字として認められている字と遜色がないと認められる。
実は、この決定は、平成19年の漢字出現頻度数調査に関して、人名用漢字の「俱」(2263位・1028回)と、人名用漢字ではない「倶」(2589位・602回)を取り違えているようなのですが、とにもかくにも東京高等裁判所は「渾」を「常用平易」だと認めたのです。
平成29年9月25日、法務省は戸籍法施行規則を改正し、「渾」を人名用漢字に追加しました。それが現在も続いていて、「渾」を出生届に書いてOKなのです。ただし、平成19年の漢字出現頻度数調査で3012位以上だった漢字のうち、以下に示す355字は、現在も出生届に書くことができません。これらの漢字は、さて、今後どうなっていくのでしょう。
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