実は、平成16年の人名用漢字部会は、第2水準漢字に対して非常に冷淡でした。一例として、平成16年5月28日の人名用漢字部会議事録から、第2水準漢字(議事録では「2水」と呼んでいます)の「泪」が落とされた瞬間を見てみましょう。
違うのは,「泪」の方,こちらの字をとる必然性があるかなというような気がするのですね。要望数を比べてみても,後の⑱以下のは随分違いますから。というようなことで,この辺になると,もう個別の,2水の方はどうも趣味的なものが多くなってきて,字の形,草かんむりがついているとか,女へんだとか,そういう好ましい字とか読みとかという問題ですから,そういうようなことで言うと,この「泪」という字は,どういう根拠でこれを使うかななんて思うと,ちょっとためらいがあるのですが。
同じ日に、第2水準漢字の「檸檬」が落とされてしまった瞬間も見てみましょう。
これも提案ですけれども,先ほど,3をそれぞれ足しているものですから,8以上というところに3を足すと11ですね。それで11のところを見ますと,918「俐」か919「檸」のどちらかになるのです。できればここは918「俐」までのところで切っていただけるとよいように思います。理由は,919「檸」は,下の方の926「檬」と関係があって,合わせてレモンなものですから,ですから,片方を捨てるということで,両方捨てる。ということで,918「俐」のところでいかがかと。単純に3を足しただけのことなのですけれども,いかがでしょうか。
このような形で「泪」や「檸檬」は、人名用漢字の追加候補から落とされました。ただし、落ちたのは「泪」と「檸檬」だけではないのです。この日の人名用漢字部会は、「泪」や「檸檬」を落とすために、第2水準漢字の選定基準そのものをいじってしまったのです。その結果、第2水準漢字の追加候補選定基準は、第1水準漢字に比べて、不当に厳しいものとなってしまいました。
追加候補選定基準 | 漢字出現頻度数調査 | |||
---|---|---|---|---|
200回以上 | 50~199回 | 1~49回 | ||
不受理の法務局数 | 11以上 | JIS第1~3水準 | JIS第1・2水準 | JIS第1・2水準 |
8~10 | JIS第1~3水準 | JIS第1・2水準 | JIS第1水準 | |
6~7 | JIS第1~3水準 | JIS第1水準 | JIS第1水準 | |
0~5 | JIS第1・3水準 | - | - |
少しわかりにくいですね。第1水準漢字と第2水準漢字で、別々の表にしてみましょう。
第1水準漢字 | 漢字出現頻度数調査 | |||
---|---|---|---|---|
200回以上 | 50~199回 | 1~49回 | ||
不受理の法務局数 | 11以上 | ○ | ○ | ○ |
8~10 | ○ | ○ | ○ | |
6~7 | ○ | ○ | ○ | |
0~5 | ○ | × | × |
第2水準漢字 | 漢字出現頻度数調査 | |||
---|---|---|---|---|
200回以上 | 50~199回 | 1~49回 | ||
不受理の法務局数 | 11以上 | ○ | ○ | ○ |
8~10 | ○ | ○ | × | |
6~7 | ○ | × | × | |
0~5 | × | × | × |
もし、本当に第2水準漢字の方が「常用平易」でないのなら、同一の選定基準を用いても自然に第2水準漢字の方が少なくなるはずで、ことさらに厳しい基準を適用する意味がありません。しかし、現実には人名用漢字部会は、第2水準漢字にのみ厳しい基準を適用したのです。この結果、人名用漢字の追加候補となった第2水準漢字は、わずかに37字でした。「浚」が入る余地はありませんでした。
(最終回につづく)