ロングリー夫妻は、アメリカン・ライティング・マシン社の「Caligraph No.2」も扱うことにしました。ウィックオフ・シーマンズ&ベネディクト社は、「Remington Type-Writer No.2」に替えて「Remington Standard Type-Writer No.2」を発売したのですが、「Caligraph No.2」と「Remington Standard Type-Writer No.2」のどちらが良く使われるようになるのか、ロングリー夫妻には予測できなかったのです。「Caligraph No.2」は、大文字と小文字が全て別のキーになっていて、72個のキーを有するタイプライターでした。一方、「Remington Standard Type-Writer No.2」は、大文字と小文字が同じキーになっていて、38個のキーに加え、「Lower Case」(小文字への切り替え)と「Upper Case」(大文字への切り替え)がありました。
ロングリー夫人は、シンシナティ速記タイプライター専門学校での科目に、「Caligraph No.2」と「Remington Standard Type-Writer No.2」の両方を取り入れました。これらのタイプライターは、キー配列が全く異なっていたのですが、両手の人差指・中指・薬指・小指の全てを使う、というルールと、同じ指を連続して使うのは同じキーを連続して叩く場合だけ、というルールを、ロングリー夫人は徹底しました。たとえば「designed」という単語に対しては、「Caligraph No.2」では、左手中指(d)→左手人差指(e)→左手中指(s)→右手中指(i)→右手人差指(g)→左手人差指(n)→左手中指(e)→左手薬指(d)という運指を、ロングリー夫人は採用しています。同じ「d」であっても、前後の流れで、中指を使ったり薬指を使ったりするのです。あるいは「Remington Standard Type-Writer No.2」では、「designed」という単語に対して、左手人差指(d)→左手中指(e)→左手薬指(s)→右手中指(i)→左手人差指(g)→右手人差指(n)→左手薬指(e)→左手中指(d)という運指を、ロングリー夫人は採用しています。同じ「d」であっても、前後の流れで、人差指を使ったり中指を使ったりするのです。
ロングリー夫人は、「Caligraph No.2」用の運指教本と、「Remington Standard Type-Writer No.2」用の運指教本を執筆し、シンシナティ速記タイプライター専門学校での教材として使いました。また、1883年5月には、これらの教材を、1冊50セントで販売しはじめました。