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第26回 【教育移住】きょういくいじゅう

筆者:
2021年10月25日

[意味]

より良い教育環境を求め、首都圏などから地方へ移住すること。子供だけが一定期間移り住む「山村留学」などを含む。

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2021年に入り、「教育移住」という語をよく見るようになりました。移住というと、定年退職後に都会から地方へ移り住む、子供が豊かな自然に触れられるようにと一家で引っ越しするといった定住のイメージがあります。ただ、最近新聞で見る「教育移住」とはそうしたものとは異なり、一家で一緒に行くというものもあるようですが、どうも小中高生の「国内留学」というような色彩が強いようです。

子供が一定期間親元を離れ、里親家庭で生活をしながら現地の学校に通う「山村留学」や「山海留学」などは以前からよく知られています。都会の子供が、数年でも豊かな自然環境のなかで生活をすることは、教育的にも貴重な体験となるでしょう。これに対し「教育移住」とは、恵まれた自然環境はもちろんですが、きめ細かでユニークな教育を実践する地域に、子供が移り住むことをいいます。広島県の離島には全国から入学希望者が訪れる県立高校があり、教育寮を備え町ぐるみで子供の成長を後押ししているとのこと。これなどまさに「教育移住」と言えるのかもしれません。

地方自治体には、人口減・少子化対策のひとつとして積極的に「教育移住」を受け入れるところが増えてきました。学齢期という一定期間であるため、直接定住人口が増えるわけではありませんが、常に子供がいるという状態をつくることは地域の活性化にもつながります。都市部の住民との絆を築くことは「関係人口」の増加、ひいては将来の移住・定住のきっかけになるとも期待されています。

かつては、人口減が進む地域から子育て環境が整った中心部へ移ることを「教育移住」などとする記事を見たことがありました。近年は逆の動きとしての意味で使われ、いまでは地方再生のキーワードとなっています。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。長く作字・フォント業務に携わる。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書などに『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2018年9月から日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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