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第33回 【産地偽装】さんちぎそう

筆者:
2022年5月30日

[意味]

農水産物などの生産地を偽って表示し消費者などを欺くこと。虚偽表示。

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輸入アサリを熊本県産に偽装した問題が明るみに出たことで、「産地偽装」の出現記事件数が増えています。2018年以降は1桁だったものが、2022年に入り4カ月で15件に達しました。かなりの増加と見ていいでしょう。熊本県産の2020年の漁獲量が21トンなのに対し販売量が推計2485トンとなれば、多くが偽装されていたのはまず間違いないといえます。

この問題を受け、農林水産省と消費者庁は産地表示のルールを厳格化しました。輸入アサリを国産と表示できるのは、養殖の漁業権を持つ業者が日本国内で1年半以上育成し、通関書類などがそろっている場合に限るとしたのです。アサリを出荷できるまで成長させるには3年ほどかかるとされ、成貝を1年半以上育てることも難しいため、今後は輸入品が国産と表示されることはほぼなくなると見られています。

日本経済新聞の「産地偽装」の初出は2002年1月29日付朝刊でした。この年は牛肉の産地偽装から始まり、豚肉、ゴボウなど一気に137件の記事に登場。その後は2桁台で推移していましたが、輸入ウナギを国産と偽装したことが発覚した2008年は257件と急増し最多となりました。この年は輸入冷凍ギョーザから農薬が検出されたり、カビ毒や残留農薬に汚染された「事故米」が流通したりするなど、食の安全を脅かす事件が相次いで起きています。

繰り返される産地偽装。消費者の国産志向を逆手にとり、安い輸入品を国産品と偽り利ざやを稼ぐような商法は許されません。

【産地偽装】さんちぎそうの登場記事件数
*日本経済新聞の記事を調査。2022年は4月まで。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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