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第35回 【動物福祉】どうぶつふくし

筆者:
2022年7月25日

[意味]

すべての動物が精神的・肉体的に健康で、幸福であり、環境とも調和する状態にするという考え方。家畜についても、飼育、運送、食肉処理などの過程で、可能な限り苦痛を与えないようにすべきだとされる。

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「動物福祉」への関心が高まっています。ここ数年、日本経済新聞の記事に登場する回数も増えてきました。動物園や水族館では、動物がストレスを感じずに本来の行動を取れるような環境づくりが進められています。家畜に苦痛を与えないため、牛の鼻輪をやめるなどの動きも見られるようになりました。

欧米では動物福祉を重視しない企業に対し投資家の批判が強いといいます。食材を購入する際には、どんな環境で育てられたかを重視する消費者が増えているという話も聞きました。動物福祉が国際的潮流になるなか、国内企業や生産者も積極的に取り組むべき課題になっているのは間違いないでしょう。

動物福祉がニュースで多く取り上げられるきっかけは、吉川貴盛元農相の有罪が確定した鶏卵汚職事件でした。国際獣疫事務局(OIE)が2018年、動物福祉に配慮した養鶏の環境整備を指針案として示しましたが、農林水産省として反対するよう鶏卵業者を利する働きかけをし、賄賂を受けたとされます。指針案は巣箱や止まり木の設置を義務化し鶏の行動を自由にするもので、日本で主流のケージ飼育を否定する内容。これが日本の反対もあり2019年の修正案ではケージ飼育を容認する記述が加わったとされます。

汚職事件が報道されているさなかも、鳥インフルエンザウイルスの発生で養鶏場の鶏が殺処分されるというニュースを何度か見聞きしました。防疫のため必要な措置であることは理解していますが、動物福祉の理念を考えると心が痛みます。

「動物福祉」の出現記事件数
*日本経済新聞の記事を調査。2022年は6月まで。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

毎月最終月曜日更新。