第262回「大阪方言10万円」にならって,長野県方言をあしらった商品がいかほどになるかをまとめてみました。大阪のように,一店舗で10万円を優に超えるというわけには,いきません。ですが,広い県内のあちこちをめぐり,合計すれば,どうやら2万円を超え,京都・愛知・沖縄・青森・岩手の5府県に次ぐことになりそうです。
根拠となる有力な事例としては,第240回「方言ステッカーで交通安全の呼びかけ(長野県飯田市)」で紹介したステッカーがさらに増えていることが挙げられます【写真1】【写真2】。
飯田弁を活用してきた流れに乗る追加バージョンは,飯田地方で多用される「とる」〔~ている〕「もんで」〔~ので〕を使い,決め文句は「かにや」〔堪忍してください〕となっています。
一方,長野県下で広く親しまれている「ずく」〔気力〕を前面に押し出したニューバージョンは,環境への配慮を呼びかけるものです。
このほか,本サイトでまだ取り上げていない信州方言グッズでは,
「おひょっくり」〔ひょっとこ〕の語を染め抜いた方言手ぬぐい。当地独特のすいとんを「おひょっくり」と呼んでいる。熱い具材をフーフーしながら食べる顔の様子からの命名。……白馬村
「まめったぃ」〔健やかによく働く〕という靴の中敷き……白馬村
「あちゃまおやき」〔あらまあ(おいしい)〕の語を冠した「おやき」(野菜などを具にした蒸かしまんじゅう)……中野市
「じょんのび」〔気楽だ〕という豆菓子……木島平村
「大まくらい」〔大食い〕という洋菓子……信濃町
「おおまくらい」を超大盛りのざるそばのメニューとしている店がある……長野市
「500円でなっちょ!?」〔どうですか?〕という書名のグルメ&スィーツのガイド本……長野市
「ぬっくたい」〔暖かい〕というネクタイ……長野市
などがあり,2万円超えに貢献しています。
全国の各都道府県の状況をつかむには,「方言産業グラフ」(井上史雄氏『経済言語学論考』明治書院2011.12 p.149)が参考になります。それによると,「京都・大阪・愛知,青森県付近,高知,鹿児島,沖縄が上位で,大都市と,国土のはずれという両端に際立」っています。また,個別の事例については,『魅せる方言』(三省堂2013.11)の「第二部 買える方言・買わせる方言」をご覧いただくと,品目や地域の広がりを実感できます。
今日の状況を考えると,私たちのような方言グッズ愛好家の目が行き届きつつあることと,方言を意識的に,積極的に使って,その地域らしさを強くアピールするようになってきたことがあると思われます。