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第50回【削減価値】さくげんかち

筆者:
2023年10月30日

[意味]

商品の原価を下げても品質を落とさず、価格を抑えて利益も確保するというマーケティング概念。

[対義]

付加価値

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この言葉は最近になって知りました。2023年9月25日付日本経済新聞夕刊1面(北海道版は9月26日付朝刊北海道経済面)に載った丸谷智保セコマ会長の「高齢化社会と削減価値」というコラムを読んでのことです。

高齢化社会になり、年金や生活保護など社会保障収入に依存する人が多くなっていくなかで、これまでのような付加価値マーケティングの成立は限定的になり、「削減価値」という新たな価値観を生み出さねばならないという趣旨でした。

成長する社会では付加価値の「付加」の部分は消費者が負担するものでしたが、購買力が下がる高齢化社会では消費者に無理な負担はかけられません。企業にとって、無駄を省き品質を落とすことなく低価格を実現することが重要になってきました。利益は残しつつも、消費者の立場にたった価格設定をすることこそが「削減価値」というわけです。

ある地方新聞社が購読料の改定(値上げ)に伴いデジタルサービスの拡充を告知したところ、高齢の読者から「デジタルは不要だから紙の新聞を値下げしてほしい」といった要望が相次いだとのことです。電子版に力を入れている日経の社員としては「うーん」と思わずにいられないことではありますが、年代によって読者のニーズは様々であり、なるほどなあとも思いました。

仕事などで日々使うパソコンやスマートフォン。情報機器の進化・高度化はとどまるところを知りません。便利といわれる機能が増えていっても、それについていけないおじさんとしては、必要最小限のシンプルな機能で安い製品はないものかと考えてしまいます。これも「削減価値」を求めていることになるのでしょうか。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

毎月最終月曜日更新。