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第51回【危険水域】きけんすいいき

筆者:
2023年11月27日

[意味]

物事が不安定になり、危機に陥るおそれのある状況のたとえ。世論調査の内閣支持率は20%台が「危険水域」とされ、20%を切ると「退陣」などともいわれる。

[関連]

一喜一憂

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危険水域といえば「海・川などで、進入すると危険がある範囲」(三省堂国語辞典第8版)のこと。船が航行する際に、座礁や遭難、紛争に巻き込まれる恐れのある危険性の高い水域などをいいます。新聞では実際にこうした範囲を指して使われることもありますが、どちらかといえば、比喩として「経済や市場の過熱が危険水域に達する」のような「危険がある事態」(同)を言うことが多いでしょう。

なかでもよく見られるのが政治関係の記事。報道各社が毎月行っている世論調査で公表される内閣支持率は、30%を割ると「危険水域」などといわれます。過去の政権でも支持率が30%台半ばに差し掛かると、運営に安定を欠くことが多く見られました。こうした政権の「危険水域」は日本経済新聞社の記事データベースで調べると、初出と見られるのが米政権関係で1985年に1例あり、国内の話では1990年代に入ってから使われていました。それ以前は「30%を割れば黄信号、20%を下回れば赤信号」とも言われていたようです。

日本経済新聞社とテレビ東京が10月27~29日に行った調査では、岸田文雄内閣の支持率は前月から9ポイント低下して33%となり、危険水域に迫りました。これは2021年10月の政権発足以来の最低で、2012年の自民党政権復帰後でも最も低い数字。各社調査でも低下傾向は変わらず、11月に入り軒並み20%台に落ち込んでいます。岸田首相は11月9日に年内の衆院解散・総選挙の見送りを事実上表明。政権側の「(世論調査の数字に)一喜一憂しない」との発言は、支持率低迷時によく聞かれるものです。

同じ政治関係では、派閥の議員数でも「危険水域」が使われます。所属議員が100人の大台に達すると分裂リスクが出てくるのだとか。こちらは内閣支持率とは異なり、数字が増えた場合の表現になります。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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