「問題解決方式」の読解問題作法においては、作中人物がどのような問題に遭遇し、それをどのように解決したのかをとらえさせるのが発問の第一ステップとなる。ここで、単純に「主人公はどういう問題に遭遇しましたか?」「その問題を主人公はどうやって解決しましたか?」と問えば、それこそ問題解決なのだが、これではいかにも工夫がない。テキストに示された問題と解決策をとらえながら、同時に問題と解決策の背景も探っていくような発問が望ましいのである。
では、どうすればいいのか、具体例を挙げて説明しよう。フィンランドの小学校3年生用の教科書に掲載されている事例である(*)。
●物語「ちょうど35キロ」のあらすじ●
学校でバザーが開かれている。バザー会場に体重計があり、おじさんが呼びこみをやっている。料金1ユーロで体重を計測し、ちょうど35キロであれば賞品がもらえるとのこと。ユッシ少年の体重は36.5キロ、ラミ少年の体重は33.5キロで、いずれも賞品を獲得できない。そこでユッシは目的を告げぬまま、ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる。わけのわからぬままラミはレモネードを飲み、体重計に乗る。ちょうど35キロ! みごと賞品を獲得する。レモネードを飲みすぎて気持ち悪くなったラミが受け取った賞品は、レモネード一箱だった。
この物語における問題は、たとえば「体重を35キロにすること」、解決策は「(体重33.5キロの)ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる」である。
ここでフィンランドの教科書に掲載されている発問①を見てみよう。
「なぜ、ユッシはラミに、レモネードを飲ませたのですか?」
実はこれが“作中人物がどのような問題に遭遇し、それをどのように解決したのかをとらえさせる”発問なのである。ただ、「問題は何か?」「解決策は何か?」と一問一答で答えさせるのではなく、「発問の連鎖」を生み出すための“きっかけ”となる発問である。
この場合の「発問の連鎖」として、たとえば次のような展開が考えられる。
「なぜ、ユッシはラミに、レモネードを飲ませたのですか?」
「賞品をもらうため」
「なぜ、レモネードを飲ませれば賞品がもらえるのですか?」
「体重が35キロになれば賞品がもらえるから」
「なぜ、体重が35キロになれば賞品がもらえるのですか?」
「体重がちょうど35キロなら賞品をもらえるというイベントをやっているから」
「なぜ、ラミにレモネードを飲ませれば、体重が35キロになるのですか?」
「ラミの体重は33.5キロなので、レモネードを1.5リットル飲ませれば、ちょうど35キロになるから」……
もちろん問いと答えの順序はさまざまになりうる。たとえば「なぜ、ユッシはラミにレモネードを飲ませたのですか?」に対して、「体重を35キロにするため」という答えが返ってくる可能性もあるからだ。こうなると、次の発問は「なぜ、体重を35キロにしようとしたのですか?」になり、それに対する答えは「体重を35キロにすれば賞品がもらえるから」となるだろう。順序はさまざまだが、結局は同じ方向に収束していくことになる。そして、この一連の問いと答えの連鎖から、テキストに示された問題と解決策を明らかにすることができると同時に、その背景事情も探ることができるのである。
コツは「解決策の『なぜ?』を問う」ところにある。
「なぜ(解決策となりうる)その行動をとったのか?」と問われれば、そもそもどのような問題が存在するのか、なぜその行動が問題の解決になりうるのかを答えていかなければならない。答えに応じて、さらに「なぜ?」を問う。それによって、テキストに示された問題と解決策を詳細に分析していくことができるのだ。
もちろんテキストはさまざまであり、読解問題はテキストへの依存性が高いため、あらゆるテキストにこの方法が使えるわけではない。だが、「解決策の『なぜ?』を問う」ことによって“作中人物がどのような問題に遭遇し、それをどのように解決したのかをとらえさせる”のは、読解問題作法の定石なのである。
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(*)『フィンランド国語教科書 小学3年生』pp80-81 メルヴィ・バレ他著/北川達夫訳/経済界 2006年