最近「習得」「活用」「探求」という言葉をよく聞くようになり、いつのまにか「PISA型学力=活用型学力」という等式が成り立つようになり、それに関連して「フィンランドではどういうふうに活用型授業を……」というような質問が投げかけられるようになった。この類の質問がいちばん困る。日本とフィンランドは違う。日本の考えかたをフィンランドにそのまま当てはめて答えるのは至難のワザである。
とはいえ、世界的な学力観の転換の中で(⇒第12回・第13回参照)、フィンランドにおいても指導方法が転換したことは事実である。これを俗に「注入型」から「喚起・共有・探求型」への転換という。
80年代半ばくらいまで、フィンランドの学校では注入型の授業が行われていた。たとえば、何らかのテーマについて教えるとすると、「注入」型の授業においては――
①先生がテーマについての知識を一方的に教え込む。
②子どもは教えられたことを覚え込む。
③教え込んだことを、きちんと覚え込んでいるかどうかを確かめる。
しかし、世界的に学力観が転換したこと、またこのやりかたは効率的なように見えるが効率的ではないところもある(すぐ覚えるが、すぐ忘れる)ことから、80年代から90年代にかけて「喚起・共有・探求」型の授業へと大転換がなされた。この型で教える場合、次のような流れになる。
①発問「テーマについて何を知っていますか?」
子ども個々の知識と経験を喚起し、それを全員で共有する。
②発問「テーマについて何を知りたいですか?」
子ども個々の疑問を喚起し、それも全員で共有する。
(ここで教師は子どもたちの疑問を整理する)
③分業体制で知りたいことを調べる。
整理された疑問について、グループごとに手分けして調べる。
必ずしも「自分の知りたいこと」を調べるわけではない。
④調べたことを発表する。
グループごとに調べた内容は異なるため、これによって新たな知識を共有する。
⑤終了課題:
たとえば個々に/グループでテーマに関わる説明文を書く。
この方式は、国語の説明文の授業にそのまま当てはめることができる。たとえば、フィンランド国語教科書小学3年生の「モルモット」(1)であれば――
①発問「モルモットについて何を知っていますか?」
②説明文「モルモット」を読む。
③発問「説明文『モルモット』を読んで新たに分かったことは何ですか?」
④発問「モルモットについて、さらに知りたいことは何ですか?」
⑤分業体制で調べる~調べた内容を発表して共有する。
⑥終了課題:説明文「モルモット」に、自分たちで調べた内容を書き加える。
この方法がフィンランドで初めて提唱されたのは80年代半ばとのことだが、普及するには教科書(+教師用指導書)の変化が必要であったため、ある程度定着するまでに10年近くを要したという(2)。
さて、日本はどうだろう。
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(1) 『フィンランド国語教科書 小学3年生』pp37-38 メルヴィ・バレ他著/北川達夫訳/経済界 2006年
(2) フィンランド教育庁Pirjo Sinkoさん、教科書執筆者Mervi Wareさんの談話より。
二人については第27回の注を参照⇒「第27回 フィンランド紀行7」の注へ