(QWERTY配列の変遷100年間(3)からつづく)
1933年6月、IBMはエレクトロマチック・タイプライターズ社を買収し、「IBM Electromatic」の販売を開始しました。「IBM Electromatic」は42キーの電動タイプライターで、電動のシフト機構によって、84種類の文字を打ち分けられるようになっていましたが、コンマとピリオドはシフトしないようになっており、実際には82種類の文字が搭載されていました。アルファベットのキー配列は「Remington Standard Type-Writer No.2」を踏襲していましたが、数字や記号は独自のキー配列となっていました。
その後IBMは、「IBM Electromatic」の数字キーを左に一つずらしています。この際に、数字の1は小文字のlで代用することにし、代わりに分数を2種類追加しています。
この「IBM Electromatic」の新しいキー配列は、1948年10月発売の「IBM Electric」にも、そのまま搭載されました。さらにIBMは、1961年7月に「IBM Selectric」を発売します。「IBM Selectric」は、活字ボールによる印字機構を採用しており、活字ボールを変更することで、フォントや搭載している文字を変更できるようになっていました。その意味では、キー配列も自由に変更可能だったのですが、「IBM Selectric」の44キーの標準キー配列は、「IBM Electric」を踏襲したものになっていました。
IBMは、「IBM Electric」や「IBM Selectric」のキー配列をアメリカ規格協会に提出し、その標準化を画策しました。1966年7月、アメリカ規格協会はASA X4.7という規格を制定し、その中で「Electric Typewriter Keyboard」と「Manual Typewriter Keyboard」というタイプライター用のキー配列を標準化しました。この「Electric Typewriter Keyboard」は、「IBM Electric」のキー配列そのものでした。
1971年3月、アメリカ規格協会はANSI X4.14という規格を制定し、その中で「Logical Bit Pairing」と「Typewriter Pairing」というコンピュータ用のキー配列を標準化しました。この「Typewriter Pairing」は、「IBM Selectric」のキー配列をコンピュータ用に改良したもので、ASCII(American Standard Code for Information Interchange)の94種類の文字を、47キーに配列したものでした。
1988年1月、アメリカ規格協会は、これらのキー配列規格を統合し、ANSI X3.154という規格を制定しました。タイプライターとコンピュータとで異なっているキーは、規格上は空欄にしておいて、その実装は各社にまかせるという形にしたのです。
ANSI X3.154は、その後2002年1月にANSI INCITS 154という規格番号に変更されましたが、キー配列そのものは変更されませんでした。アメリカのコンピュータのキーボードで、今も2のシフト側に@が収録されているのは、このANSI INCITS 154に従っているからなのです。