8月中旬になると、テレビニュースのトップは決まって帰省の話題になります。〈お盆をふるさとや行楽地で過ごす人たちの帰省ラッシュがピークを迎え……〉というのが決まり文句ですが、この時期に日本全国でいっせいにお盆が行われるわけではありません。
小林信彦『イーストサイド・ワルツ』では、東京生まれの主人公が、8月中旬にホテルが満室なので驚く場面があります。お盆休みの時期だからだと聞いて、彼は納得します。
〈そうだったのか、と私は気づいた。八月十五日といえば、深川祭りのほかに、終戦記念日がある。そこまでは頭の隅にあったが、旧盆を忘れていた。〉(新潮文庫 p.310)
東京では、お盆は7月中旬なので、主人公は8月中旬のお盆を忘れていたのです。
そうかと思えば、落語家の立川志の輔さんは、8月中旬に東京で落語会を行うことになって、〈え、お盆に──〉と、違和感を持ったようです。志の輔さんは富山県の出身です。
〈でもよくよく考えてみれば、東京のお盆は7月なのですね。〉(『毎日新聞』2008.7.25 p.27〔東京面〕)
このように、お盆をいつ行うかについての認識は、出身地によって変わってきます。
もともと、お盆は旧暦7月15日に行うものでした。新暦が施行されて、東京などでは新暦7月15日に行うようになりましたが、多くの地方ではそのまま旧暦に基づいています。旧暦と新暦との差はだいたい1か月なので、新暦8月15日に行う地方が多いのです(月遅れのお盆)。ただ、厳密には、旧暦7月15日は、新暦では年によって8月上旬から9月上旬の間で変わるため、地方によっては9月にお盆をする年もあります。
こういった事情をすっきり説明したいものです。『三省堂国語辞典』では、従来、「盂蘭盆会(うらぼんえ)」の項目で、〈(陰暦)七月十五日に祖先の霊をまつる、仏教の行事。地方では、一月おくれが多い。〉としていました。正しい記述ですが、陰暦8月に行う地方が多いようにも読めます。第六版では、次のように記述を新しくしました。
〈七月十五日に祖先の霊(レイ)をまつる、仏教の行事。旧暦にもとづくもの〔多く、新暦八月十五日ごろ〕と、新暦のものとがある。(お)ぼん。精霊会(ショウリョウエ)。〉
8月のお盆と、7月のお盆とを並べて説明しました。どの時期にお盆を行う地方の人にも、納得してもらえる説明になったと思います。