三省堂国語辞典のすすめ

その56 ジュークボックスでCDを?

筆者:
2009年2月25日

『三省堂国語辞典 第六版』のための改訂作業は、この辞書全体に及んでいます。約4千語を追加したほか、記述を改めた箇所は1万を超えました。この中には、説明のことばが古く感じられるため、修正を加えたものがあります。

【ぶどう酒? ワイン?】
【ぶどう酒? ワイン?】

たとえば、「シェリー」という語は、旧版では次のように記述していました。

〈シェリー(名)〔sherry〕スペインで できる白ぶどう酒。〉

このうち、〈白ぶどう酒〉のあたりが引っかかります。今日、「ぶどう酒」と言う人は少なくなり、多くの人は「ワイン」と言います。そこで、今回は、説明文中にある「ぶどう酒」は、原則として「ワイン」に変更しました。

【今や「レコード」は…】
【今や「レコード」は…】

また、「レコード」ということばは、旧版までは、説明や用例の文中でよく使われましたが、今日では変更したい部分が多くなりました。たとえば、「ジャケット」の説明は、旧版では〈本・レコードの、おおい。〉となっていましたが、第六版では〈本・CDなどの、おおい。〉に変えました。

こういった作業は、「レコード→CD」というように、機械的に変換すれば済むものではありません。ひとつひとつについて、変更していいかどうか判断する必要があります。

「初版」ということばの場合、旧版では次のようになっていました。

〈しょ はん[初版](名)〔書籍(ショセキ)・画集・レコードなどの〕最初の版。〉

この「レコード」は「CD」に変えてもいいでしょうか。CDの「初版」というのはあまり聞きません。でも、新聞記事などに例がないわけでもありません。

〈〔そろばんの歌のCDとDVDが〕初版は1500枚。大奈さんは「控えめに」とそろばんをはじくことはせず、そろばん文化の継承を願う。〉(『朝日新聞』2006.5.24 p.39)

このような例を確認した上で、第六版では「レコード」を「CD」に変えました。

一方、「レコード」をそのまま残した説明文もあります。たとえば、「ジュークボックス」は、旧版では〈おかねを入れ、ボタンをおすと指定したレコードが自動的に かかる機械。〉とありましたが、変更しませんでした。CDを演奏するジュークボックスもあるそうですが、ことばにともなう時代感覚を表現するためには、ジュークボックスは「レコード」をかける機械と説明したほうがいいでしょう。

【レコードをかける機械】
【レコードをかける機械】

筆者プロフィール

飯間 浩明 ( いいま・ひろあき)

早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。

URL:ことばをめぐるひとりごと(//www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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