『三省堂国語辞典 第六版』のための改訂作業は、この辞書全体に及んでいます。約4千語を追加したほか、記述を改めた箇所は1万を超えました。この中には、説明のことばが古く感じられるため、修正を加えたものがあります。
たとえば、「シェリー」という語は、旧版では次のように記述していました。
〈シェリー(名)〔sherry〕スペインで できる白ぶどう酒。〉
このうち、〈白ぶどう酒〉のあたりが引っかかります。今日、「ぶどう酒」と言う人は少なくなり、多くの人は「ワイン」と言います。そこで、今回は、説明文中にある「ぶどう酒」は、原則として「ワイン」に変更しました。
また、「レコード」ということばは、旧版までは、説明や用例の文中でよく使われましたが、今日では変更したい部分が多くなりました。たとえば、「ジャケット」の説明は、旧版では〈本・レコードの、おおい。〉となっていましたが、第六版では〈本・CDなどの、おおい。〉に変えました。
こういった作業は、「レコード→CD」というように、機械的に変換すれば済むものではありません。ひとつひとつについて、変更していいかどうか判断する必要があります。
「初版」ということばの場合、旧版では次のようになっていました。
〈しょ はん[初版](名)〔書籍(ショセキ)・画集・レコードなどの〕最初の版。〉
この「レコード」は「CD」に変えてもいいでしょうか。CDの「初版」というのはあまり聞きません。でも、新聞記事などに例がないわけでもありません。
〈〔そろばんの歌のCDとDVDが〕初版は1500枚。大奈さんは「控えめに」とそろばんをはじくことはせず、そろばん文化の継承を願う。〉(『朝日新聞』2006.5.24 p.39)
このような例を確認した上で、第六版では「レコード」を「CD」に変えました。
一方、「レコード」をそのまま残した説明文もあります。たとえば、「ジュークボックス」は、旧版では〈おかねを入れ、ボタンをおすと指定したレコードが自動的に かかる機械。〉とありましたが、変更しませんでした。CDを演奏するジュークボックスもあるそうですが、ことばにともなう時代感覚を表現するためには、ジュークボックスは「レコード」をかける機械と説明したほうがいいでしょう。