『三省堂国語辞典』は、小型ながら、わりあい図版が多いのが特長です。主幹だった見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)によれば、〈図版の最初が“アーケード”というパターンはこの辞書に始まる〉ということです(『ことばの遊び学』)。
『三国』の本文第1ページ目には、この「アーケード」とともに、もうひとつ、「アーティチョーク」の図版が載っています。この名前を聞いてぴんと来る人は、かなりのグルメでしょう。〈大形のアザミ。西洋料理で、つぼみを食べる。和名チョウセンアザミ。〉と説明してありますが、どんな外観か、図版があれば助けになります。そこで、松ぼっくりの化け物のような(?)つぼみのイラストが添えてあります。
アーティチョークを日本の人びとに紹介した功績のあるひとりが、伊丹十三さんでしょう。『ヨーロッパ退屈日記』(1965年)の中で、次のように記しています。
〈一見、緑色をした巨大な百合根の如きものであって、〔略〕日本では五月から六月が季節〔略。味は〕一等近いものはそら豆じゃないかな。〉(文春文庫版 p.96-97)
おそろしい外観の割には、食べ方は、そうむずかしくはありません。塩水に漬けて、柔らかくなるまでゆでて、鱗片(りんぺん)や、幾重もの層になった中身を食べます。味は、伊丹さんの言うように空豆のようでもあり、苦みのあるじゃがいものようでもあります。
もっとも、日本で一般に入手しやすいのは、生のものよりもびん詰めのほうでしょう。オリーブオイルと酢、塩に浸けたそれは、たけのこのような歯ざわりです。薄い層が球状に重なっているので、京料理の湯葉をも連想させます。
ゆでたものも、びん詰めのものも、ピザやスパゲッティなどによく合い、食欲を増進します。パスタ店でもトッピングに使っている所がけっこうあります。
ところで、語形についてですが、フランス語ではこれを「アルティショ」と言います。中島梓さんも次のように書いています(「ウマいもんじゃない」は、ことばのあやです)。
〈アルティショ(朝鮮あざみ)だって、枝豆、ソラ豆だって、あーた、大してウマいもんじゃないよ。〉(『にんげん動物園』角川書店 1981年 p.53)
また、伊丹さんは上記のエッセーの中で「アーティショー」の形も使っています。『三国』の第六版では、これらの語形も「アーティチョーク」の項に書き添えました。