鈴木マキコ(夏石鈴子)さんに聞く、新明解国語辞典の楽しみ方

新明解国語辞典を読むために その2 第4回

筆者:
2021年9月7日

わたしは文学賞とは全く縁がありませんが、『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(小学館文庫)で、「2017 さわベス 文庫部門」で1位になったことがあります。

「さわベス」について、盛岡のさわや書店のHPから、ご紹介します。

さわベスとは 毎年年末にさわや書店の店員が居酒屋に集まり、その年に発表された本の中で一番おすすめしたい本を言い合い、ランキング形式にまとめたものです。客観的な基準があるわけではなく、しかも居酒屋で決めておりますので、最も声の大きい人の意見が通りがちです。こんな独断と偏見に満ちた「さわベス」を2004年から懲りもせず毎年続けております。最も熱く応援したい本なので、おすすめの熱さランキングとも言えます

どうですか、みなさん。こういう選び方、すばらしいです。なかなか出来ない。この時、居酒屋で最も声が大きかった方は、長江貴士さんだったそうです。ご記憶の方も多いと思いますが、2016年、ある文庫を手書き文字だけのオリジナルカバーで覆い、タイトル・著者名・出版社名を全く見せない・教えない「文庫X」として売るという、「あっ!」と驚く前代未聞の奇計に出たのが、この長江さんです。長江さん、格好いい、そして、そういう作戦にGOを出す、盛岡・さわや書店、格好いいです。この「文庫X」は、一日に最大206冊売り上げがあったそうです。はぁ、すごいことです。

で、その長江さんが、わたしの文庫を読み、居酒屋で大きな声で意見を言って下さり『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』が、2017年の文庫部門で、さわベス1位になったのでした。あー、驚いた。

その後、お店にお招きいただき2017年6月24日に、この本についての「盛岡明るい井戸端会議」というトークを13時からして、「あの、わたし、新明解国語辞典についても、話しが出来ますので、せっかく盛岡に行きますから、これも話していいですか」と、お願いして、15時からは「新解さんで遊ぼう」と題して新解さんについて、「どう読めばいいか」「どんな語釈があるか」「どんな用例があるか」という話をしてきました。

その時、来て下さった方が書いて下さったアンケート用紙が19枚手元にあります。みなさんからの大切なメッセージです。質問は二つ、「1.新解さんで引いて欲しい言葉は何ですか?」「2.今日のイベントの感想をお書き下さい」です。

ありがとうございました。いつもは、『新解さんリターンズ』に、はさんでいます。あの時の気持ちを、押し花のようにして取っておきたいからです。

「新解さんで遊ぼう」でのアンケート用紙

あの日、さわや書店に来て下さった方々の「1.新解さんで引いて欲しい言葉は何ですか?」を、お知らせします。じっくりご覧下さい。これは「さわや物件」と名付けたいです。

「挑戦」「やばい」「大学生」「女子力」「落語」「迷惑」「七転八倒or七転八起」「真心」「ありがとう」「星」「支える」「日本」「醤油」「和」「ハンカチ」「社会」「水」「しあわせ」「ジェンダー」「本」「奥様(さん)」「紙」「インターネット」「辞典」「教育」「子ども」「歴史」「哲学」「人生」「小説」「夫婦」「大切」「気」「主夫」「絶望」「希望」「ネコ」「道」「旅」「じゃじゃ麺」「不倫」「ゲス」「林家一平」「北朝鮮」「餅」「宇宙」「約束」

うーん、林家一平は本当に残念ですが八版にもまだ出てきていません。でも、落語に出て来る人の名前は、ちゃんとあります。

p.432「くまこうはちこう【熊公八公】」

辞書で引いてみたい言葉は、本当に人それぞれです。それを実感したトークでした。また、この時はじめて、「困ったお隣りさん物件」を、みなさんにご報告したのでした。

それを次回、例をあげてお伝えします。

(つづく)

 

筆者プロフィール

鈴木マキコ ( すずき・まきこ)

作家・新解さん友の会会長
1963年東京生まれ。上智大学短期大学部英語学科卒業。97年、「夏石鈴子」のペンネームで『バイブを買いに』(角川文庫)を発表。エッセイ集に『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』(以上、角川文庫)『虹色ドロップ』(ポプラ社)、小説に『いらっしゃいませ』『愛情日誌』(以上、角川文庫)『夏の力道山』(筑摩書房)など。短編集『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(小学館文庫)は、盛岡さわや書店主催の「さわベス2017」文庫編1位に選ばれた。近著に小説『おめでたい女』(小学館)。

 

編集部から

『新明解国語辞典』の略称は「新明国」。実際に三省堂社内では長くそのように呼び慣わしています。しかし、1996年に刊行されベストセラーとなった赤瀬川原平さんの『新解さんの謎』(文藝春秋刊)以来、世の中では「新解さん」という呼び名が大きく広まりました。その『新解さんの謎』に「SM君」として登場し、この本の誕生のきっかけとなったのが、鈴木マキコさん。鈴木さんは中学生の時に出会って以来、長く『新明解国語辞典』を引き続け、夏石鈴子として『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』を執筆、また「新解さん友の会」会長としての活動も続け、第八版が出た直後には早速「文春オンライン」に記事を書いてくださいました。読者と版元というそれぞれの立場から、これまでなかなかお話しする機会が持ちづらいことがありましたが、ぜひ一度お話しをうかがいたく、このたびお声掛けし、対談を引き受けていただきました。「新解さん」誕生のきっかけ、その読み方のコツ、楽しみ方、「新解さん友の会」とは何か、赤瀬川原平さんとの出会い等々、3回に分けて対談を掲載いたしました。その後、鈴木さん自身による「新解さん」の解説記事を掲載しております。ひきつづき、どうぞお楽しみください。