鈴木マキコ(夏石鈴子)さんに聞く、新明解国語辞典の楽しみ方

新明解国語辞典を読むために その3 すてきな( )物件 第3回

筆者:
2021年10月28日

前回からのつづき)

p.1477「まちくたびれる【待(ち)くたびれる】」

新解さんが約束の時間に遅れて、「あー、ごめんね」と言った側ではないことが伝わる。

p.1039「つまらない」

あ、そう言えばいいのね。

p.1037「つぶやく【呟く】」

そうですね、ほめ言葉を小声で言う場合・人はあまりない。だいたい不平だろうし、それもわざと聞こえるように言うのかもしれなくて、それを新解さんに聞こえて、こう描写した。

p.1037「つぶら【円(ら)】」

この言葉は、瞳以外に使われる時ってあるのでしょうか。つぶらな団子虫というのも聞かない。

p.1248「はじしらず【恥知らず】」

ああ、これもね人間ではなくて「妖怪しらずー」になっているのでしょう。「平気でする様子」というのが大きな特徴です。

p.1253「はだける」

そうですね、洋服の場合あまり「はだける」ことは無いように思います。着物は簡単に言うと、布を自分の体に添うように巻きつけ、腰ひもを結んで着るのです。定位置に何か印がある訳ではなく、全部自分の感覚で上前・下前の位置を決め腰ひもを使います。着付けを習っていますが、うまく着られないと、ぐずぐずと前がはだけてしまいます。なかなか上手に着られませんが、もしかしたら、簡単ではないから着物を着たいのかもしれません。

p.1253「はだざわり【肌触(り)】」

尾辻克彦は '79年『肌ざわり』で中央公論新人賞、'81年に『父が消えた』で芥川賞、'83年に野間文芸新人賞を受賞しています。

p.1282「はれがましい【晴(れ)がましい】」

みんなで拍手しましょう。

p.1217「のたくる」

新解さんは言葉の説明のために、ミミズを含めて毎日いろいろな物を見ている。

わたしが、新解さんの( )の使い方を「うまいなー」と実感したのは、「のろける」を引いた時でした。これまで何度も書きましたが、今回も最後に「のろける」をご紹介して、すてきな( )物件を終りにします。用例もちゃんと見て下さい。新解さんの気持が見事に表現されています。新解さんは、『他人にうれしそうに話す』と冷静に描写していますが、苦しい顔でのろける人は変態だと思うので、のろけとしてはこれはこれで正しいと思います。

p.1223「のろける【惚気る】」

 

(「その3 すてきな( )物件」おわり。その4につづく)

 

筆者プロフィール

鈴木マキコ ( すずき・まきこ)

作家・新解さん友の会会長
1963年東京生まれ。上智大学短期大学部英語学科卒業。97年、「夏石鈴子」のペンネームで『バイブを買いに』(角川文庫)を発表。エッセイ集に『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』(以上、角川文庫)『虹色ドロップ』(ポプラ社)、小説に『いらっしゃいませ』『愛情日誌』(以上、角川文庫)『夏の力道山』(筑摩書房)など。短編集『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(小学館文庫)は、盛岡さわや書店主催の「さわベス2017」文庫編1位に選ばれた。近著に小説『おめでたい女』(小学館)。

 

編集部から

『新明解国語辞典』の略称は「新明国」。実際に三省堂社内では長くそのように呼び慣わしています。しかし、1996年に刊行されベストセラーとなった赤瀬川原平さんの『新解さんの謎』(文藝春秋刊)以来、世の中では「新解さん」という呼び名が大きく広まりました。その『新解さんの謎』に「SM君」として登場し、この本の誕生のきっかけとなったのが、鈴木マキコさん。鈴木さんは中学生の時に出会って以来、長く『新明解国語辞典』を引き続け、夏石鈴子として『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』を執筆、また「新解さん友の会」会長としての活動も続け、第八版が出た直後には早速「文春オンライン」に記事を書いてくださいました。読者と版元というそれぞれの立場から、これまでなかなかお話しする機会が持ちづらいことがありましたが、ぜひ一度お話しをうかがいたく、このたびお声掛けし、対談を引き受けていただきました。「新解さん」誕生のきっかけ、その読み方のコツ、楽しみ方、「新解さん友の会」とは何か、赤瀬川原平さんとの出会い等々、3回に分けて対談を掲載いたしました。その後、鈴木さん自身による「新解さん」の解説記事を掲載しております。ひきつづき、どうぞお楽しみください。