鈴木マキコ(夏石鈴子)さんに聞く、新明解国語辞典の楽しみ方

新明解国語辞典を読むために その5 ふたたび追記

筆者:
2022年4月1日

前回の追記)

 

「ことばのコラム」は、わたしの元上司(男性)も読んでくれています。先日取り上げた「閨怨」について、メールが届きました。

「『閨怨』なんて恐ろしい言葉があったのですね。男のひとり寝の恨みは何というのでしょう。人を恨むと、その分自分に返ってくるだけです。『閨怨』の一番の仕返しは、あんないい女を逃して失敗したと男が思うように自分に磨きをかけることです」

とのことでした。まぁね、そう言うしかないと思いますが、これは何の役にも立たないきれい事ではないですか。新解さんは辞典だからはっきり書かないけれど、「閨怨」って肉欲もてあました女の人の嫉妬ですよね。

p.665「しっと【嫉妬】」

そんな気持ちの人に、きれい事を言って済まそうなんて、元上司、良くないな。なんだか逃げている。それでは、ここはわたくしが閨怨の仕返しをご提案致しましょう。はい、生き霊飛ばしてはいかがですか。

p.68「いきりょう【生霊】」

きっと時間は有ると思うので(特に夜)、飛ばす練習を各自してみて下さい。その技を習得したら、男の側に飛んで行き、

「ねぇ、何しているの? その人、誰?」

と、耳元でささやく。これは、別に呪いの儀式でも何でもなく、普通の質問です。ですから、何も自分には返ってきません。恨みや怒りはエネルギーなので、正しく発散させたほうがいいと思います。気を付けて欲しいのは、いくら憎らしくても相手の女の方に何もしないこと。迷ったのは男なのだから、正しく導くべき相手は、その男だけです。

このように生き霊を飛ばす技とご自身に磨きをかけるといいと思います。いかがでしょうか。健闘をお祈り致します。

 

(その5おわり。その6につづく)

筆者プロフィール

鈴木マキコ ( すずき・まきこ)

作家・新解さん友の会会長
1963年東京生まれ。上智大学短期大学部英語学科卒業。97年、「夏石鈴子」のペンネームで『バイブを買いに』(角川文庫)を発表。エッセイ集に『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』(以上、角川文庫)『虹色ドロップ』(ポプラ社)、小説に『いらっしゃいませ』『愛情日誌』(以上、角川文庫)『夏の力道山』(筑摩書房)など。短編集『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(小学館文庫)は、盛岡さわや書店主催の「さわベス2017」文庫編1位に選ばれた。近著に小説『おめでたい女』(小学館)。

 

編集部から

『新明解国語辞典』の略称は「新明国」。実際に三省堂社内では長くそのように呼び慣わしています。しかし、1996年に刊行されベストセラーとなった赤瀬川原平さんの『新解さんの謎』(文藝春秋刊)以来、世の中では「新解さん」という呼び名が大きく広まりました。その『新解さんの謎』に「SM君」として登場し、この本の誕生のきっかけとなったのが、鈴木マキコさん。鈴木さんは中学生の時に出会って以来、長く『新明解国語辞典』を引き続け、夏石鈴子として『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』を執筆、また「新解さん友の会」会長としての活動も続け、第八版が出た直後には早速「文春オンライン」に記事を書いてくださいました。読者と版元というそれぞれの立場から、これまでなかなかお話しする機会が持ちづらいことがありましたが、ぜひ一度お話しをうかがいたく、このたびお声掛けし、対談を引き受けていただきました。「新解さん」誕生のきっかけ、その読み方のコツ、楽しみ方、「新解さん友の会」とは何か、赤瀬川原平さんとの出会い等々、3回に分けて対談を掲載いたしました。その後、鈴木さん自身による「新解さん」の解説記事を掲載しております。ひきつづき、どうぞお楽しみください。