はじめに
これから、私が35年以上前に創り出し、その後35年間以上にわたって実践してきた、今ではその収集データの数も350,000点以上に達する、「英文データの収集方式」について連載を始めます。私と同じ世界で生きている一部の人々には、いままでに私が著作してきた数々の書籍、各種国際会議での講演会や発表会、さらには私のホームページや私が主宰している富井翻訳塾などを通して「トミイ式英文データの収集、分類、収納方式」としてすでに知られていますので、大変おこがましいのですが、この連載の中では、簡略化して「トミイ方式」と呼ばせていただきます。
本来ならば、連載の最初には、まず「トミイ方式」とは何か、そしてその起源および変遷などについて触れて、ついでその機能・目的、さらにはその実践法などを順次述べていくべきなのでしょうが、この連載では、そのような日本語的な「起承転結」にとらわれず、「トミイ方式」には一体どのようなメリットや面白さがあるのかなどについて、エピソードなどを織り交ぜながら、最初の「連載を始めるにあたって」は5回にわたって述べていきます。
「トミイ方式」というのは、簡単にいうと
どのような目的に使うためには、どのようなものを収集し、それをどのように分類・収納しておけばよいか
ということに主眼を置いた方法論です。収集作業が進んでいけば、その結果として
どのようなものを収集し、それをどのように分類・収納しておくと、どのような目的に使うことができる
という効果も派生してきます。
「トミイ方式」がいかに素晴らしいものであるかを感じ取っていただき、この連載をお読みになった方のうち、一人でも多くの方が「これなら自分にもできる。始めてみようか」と思っていただくために、次回から4回にわたり、あえていきなりいくつかの具体例をご紹介することから始めることにします。
とはいっても、「トミイ方式」なるものがいかなるものか、まったく情報がなくては読み進められないでしょうから、ここでは「トミイ方式」においては、収集した英文データを次の7つに大分類するということだけを略述しておきます。
(1) アルファベット順
(2) 50音順
(3) 表現別
(4) 品詞別
(5) 構文別
(6) 数量表現別
(7) その他
この7つの大分類を、収集データ数が増えていくにしたがって、さらに各項目ごとに中分類、小分類、細分類、細々分類に刻んでいくと、この連載を最後までお読みいただくと分かると思いますが、最終末端単位の数としては40,000にも50,000にも達します。
それでは「トミイ方式」の素晴らしさを感じ取っていただける体験談を1つご紹介します。これは、上に挙げた7つの大分類の中の「(3) 表現別」の中にある「耐える」という表現についてのエピソードです。もう少し正確にいいますと、「(3) 表現別」のうち、中分類の1つに「耐」という言葉がありますが、この言葉は、さらに「――に耐える」という動詞形とか、「耐――性」という名詞形とか、「耐――性の」という形容詞形などという小分類に分けられており、その中の「――に耐える」という動詞形についてのものです。
もう25年以上前、すでに私のコレクションも50,000点以上になっていたときのことです。当時執筆していたある学習書の中で、どうしても「――に耐える」という場合の動詞の選択について書かなければならなかったことがありました。一般には、「――に耐える」という意味の動詞には resist,withstand,endure などがあります。しかし、当時、これら3つの動詞にはどのような違いがあり、それをどのように使い分けるかということがよくわかりませんでした。同義語辞典とか、類語辞典とか、Webster の Dictionary of Synonyms などをすべて精査してみましたが、resist は「能動的に耐える」、withstand は「受動的に耐える」というところまではわかりましたが、どうしても実感として理解できませんでした。
そこで私のコレクションの中から、「――に耐える」という動詞形の中に収納されている resist,withstand,endure などの英文をすべて引っ張り出してきて、対象として「物理量」、「現象」、および「物質」ごとに数えてみたわけです。20年以上前のことですからまだ35例文くらいしかありませんでしたが、各英単語の使用例が以下のようにはっきりとわかりました。
筆者注:「物理量」とは圧力、電圧、温度、速度などをいい、「現象」とは曲げ、振動、腐食などをいい、そして「物質」とは水、酸、アルカリ、油などをいいます。
物理量 | 現象 | 物質 | |
resist | 1 | 13 | 1 |
withstand | 15 | 2 | 1 |
endure | 2 |
このくらいの例文の数では「葦の髄から天井覗く」きらいは否めませんが、それでも、この時以来、疑うことなく、自信を持って resist と withstand を使い分けることができるようになりました。そして、このような結果から考えると、日本語では resist も withstand と同じように「耐える」という訳語があてられていますが、本来ならば「耐える」というよりは、むしろ「抗する」という日本語を当てたほうがよい場合があるということもわかりました。これらは「トミイ方式」の価値ある産物といえます。
このように、「トミイ方式」というのは、もともと英作文する場合とか和文英訳するときの、和英辞書の補助となるような言葉や言い回しを収集したものと考えてください。同じ単語でも使用例を数多く集めると、上に述べたような類語辞典のような機能を果たすこともできます。
次回からは、上に述べた「トミイ方式」の7つの大分類の中から1つずつ選び、面白いエピソードを披露していきたいと思っています。次回から3回は、「トミイ方式」の大きな3つの機能、すなわち、1) 学習機能、2) 活用機能、および3) 発表・制作機能、のうち1) 学習機能および2) 活用機能から見たエピソードを、そしてその後の4回目は3) 発表・制作機能という切り口から見たエピソードを紹介していきます。
なおこれからこの連載をお読みいただく中で、「トミイ方式」についての最低限の知識として心に留めておいていただきたいことは、これは学生の「単語帳」とは違いますので、単語単位に収集するのではなく、その該当単語が使われているセンテンス単位で収納するということです。できれば、センテンス単位ではなく、そのセンテンスが含まれているパラグラフ単位で収集すると、効果は倍加します。これについては、これから徐々に説明していきます。
最後に1つ大事なお願いとお詫びがあります。この連載に引用している例文は、私が長年、技術翻訳の世界にいましたので、そのほとんどが技術分野からのものばかりです。「技術英語といえども、所詮、英語は英語」という割り切り方もありましょうが、技術分野ではない読者の方々には、ご理解をお願いすると同時にお詫びいたします。