大規模英文データ収集・管理術

第2回 「トミイ方式」の素晴らしさ

筆者:
2011年7月4日

「トミイ方式」の素晴らしさ

前回は、この連載に関する「トミイ方式」の概要を、エピソードも交えながらお伝えしました。今回から、7つの大分類のそれぞれについて、“これぞ「トミイ方式」”といえるようなテーマをそれぞれ1つないし2つ選んで説明していきます。まずは以下に示す3つですが、このうち「(3) 表現別」は、前回の「耐」のエピソードでお話ししましたので、ここでは省略し、先を急ぐことにします。

(1) アルファベット順
(2) 50音順
(3) 表現別

(1) アルファベット順から

何万とある英語の単語を、ある目的を持って収集するわけですが、ここでは、一例として available という単語を取り上げます。

この言葉は、元来、「何々が可能である」とか「何々が入手できる」などというように、肯定を表す幅広い意味を持つ言葉です。英文を読んでいて、または英文和訳の翻訳をしていて、非常に頻繁にお目にかかる言葉です。

集め方として、最初は単純なもの、ついで徐々に複雑な例文を集めて行くやり方もありますが、時間を有効に使うためには、最初から available を内包する英例文はすべて集めていったほうがよいでしょう。そうすることにより

―― is available.

というbe動詞の補語として使われている例文、以下のように、名詞を修飾する形容詞としての用法の例文

available ――

さらには、以下に示すように、後ろにさまざまな前置詞を伴った available の例文が、ごく短時間のうちにたくさん集まってきます。詳しくは後で取り上げますので、今はその訳までは触れませんが、前置詞によっていろいろな意味になることがわかります。

(a) ―― is available as …
(b) ―― is available at …
(c) ―― is available for …
(d) ―― is available from …
(e) ―― is available from … to [through] …
(f) ―― is available in …
(g) ―― is available on [upon] …
(h) ―― is available to …
(i) ―― is available with …

例えばavailable at … ならは「…という場所で入手可能」または「…という会社とか出先機関で入手可能」となり、available from … ならば「…から入手可能」となり、available to … ならば「…(だれだれ、またはどこそこ)にとって入手可能」となります。また、以下のように commercially という言葉と一緒になって、「――は市販されている」という意味として使われている例文もたくさん集まります。

____ is commercially available
____ is available commercially

これらの表現から、isを削除して

____ commercially available
____ available commercially

とすると、「市販されている____」という言葉を自分で作ることもできます。和英辞書で「市販されている」をひいても commercially available を載せている辞書はほとんどありません。これこそが「トミイ方式」の面目躍如というところです。

コレクションの数が増えれば増えるほど、「意味」ではなく「訳語」が千変万化するこの available という言葉を正確に確実に理解することができるようになり、さらに、もっと大事なことは、英文を書いたり、和文を英訳したりするときに、この available という言葉を使って、達意な英文が書けるようになるはずです。

(2) 50音順から

これは、「(1) アルファベット順」と同様、「分類」ではなく「順番」です。「分類」と「順番」の違いは、「分類」は同類のデータが数多く集まらなければ分類はできませんが、「順番」は、英語にしろ日本語にしろ、それぞれアルファベット順や50音順に手当たり次第に収納していけばよいことになります。この「50音順」では、英例文の中に含まれている該当単語をそのシチュエーションにフィットする訳を与え、和英辞書のように、その訳語の「順番」または「場所」に文章全体を収納するわけです。それにより、既存の和英辞典には収録されていない訳語に出くわすことがあり、和英辞書の力強い補助になります。

私の面白いエピソードを披露します。

どこの空港であったか記憶はありませんが、昔、全米翻訳者協会(ATA,American Translators Association)の年次総会に、毎年出席していましたが、ある年の総会の帰りの空港でのことです。空港のベンチに腰掛け、飛行機を待っていた時のこと、右隣に座っていたアメリカ人がスポーツ新聞を読んでいました。見るとはなしに横から覗いてみると、彼が読んでいた新聞の左上に

The Buffalo Bills began the instant rebuilding of their porous defense yesterday by selecting. . . .

という記事があり、その中の porous defense という言葉が目に飛び込んできました。よくいろいろなスポーツで「穴だらけの守備」などいいますが、英語でも「穴だらけの守備」ということがあり、そのことを porous defense というのだということを学びました。やがて、彼が立って搭乗口のほうへ行こうとしましたので、わけを話して、その新聞の左上を破ってもらい、いただきました。帰国早々、そのスクラップをカードに貼り、「50音順」という大分類の中の「穴だらけの」という位置に収納してあります。和英辞書の「穴」の個所を見ても「穴だらけの」という項目はありません。仮にあったとしても、porous という単語ではないことがあり、その場合には、英語での表現が1つ増えたことになります。

そのほかにも、この分類には、主にカタカナ語として日本語に入っている英語と本来の単語が一致しない場合、その言葉を収集しておくと、後で和文英訳の時などに、すごい力を発揮してくれるというメリットがあります。

例えば、家電用の「コンセント」という日本語ですが、カタカナになっているから「コンセント」が英語であろうと思い違いして consent と書いてしまったら大きな誤りです。英語では outlet とか wall outlet などと言います。ネジ回しの「ドライバー」もそうです。これを driver と書いたら大間違いで、screwdriver とワンワードで書かなければなりません。これらは、学生の「単語帳」のように単語単位で取っておいても構いませんが、やはり、センテンス単位で取っておいた方が、使い道は広いです。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。