今回は、残った下記の2つの大分類について説明します。
(6) 数量表現別
(7) その他
(6) 数量表現別から
この大分類では、技術文において決して避けて通ることのできない、「数」と「量」に関するさまざまな英文データを収集します。「以上・以下、超え・未満」、「数詞と単位」、「数と量の概念」など、大事なことがたくさんありますが、ここではmore than one ―― について述べます。
なお、以下の説明で「数」とか「量」などとあるのは、英語において、それぞれ「数」または「量」の概念でとらえられる名詞のことを意味しています。「数」でとらえられるならば「可算名詞」、「量」でとらえられるならば「不可算名詞」ということになります。
○ more than one ――
技術文によく出てくる表現としてmore than one ―― があります。この表現を正しく理解するためには、more thanは「以上」ではなく「超え」であること、そして「以上」とは、例えば「5以上」といった場合「5を含んでそれより大きい」ことであり、「超え」とは、例えば「5を超え」といった場合「5を含まないでそれより大きい」ことであること、この2つのことをしっかりと理解しなければなりません。そしてもう1つ大事なことは、―― に「量」ではなく「数」でとらえられる名詞が来た場合、たとえば「車」とか「コンピュータ」などが来た場合には、more than one carとかmore than one computerは、決して「1台以上の車」とか「1台以上のコンピュータ」ではなく、「2台以上の車」とか「2台以上のコンピュータ」とすることです。なぜならば、more than oneが「oneを含まないでそれより大きい数字」ということは、more than one即「2」となるからです。
ところが、―― に「量」でとらえられる名詞が来た場合、例えば、more than one poundという場合、「1ポンドを超えること」即「2ポンド以上」とはなりません。なぜならば、1ポンドと2ポンドの間には、無限の数があるからです。
もう少しつっこんで考えてみましょう。――に「数」でとらえられる名詞が来た場合には、ニュアンスは若干違いますが、数値的に考えた場合、意味的にはmore than one ―― はtwo or more ――sと同じであることが分かりました。それならば両者は、全く同じなのか、どこか違うところはないのかということになります。筆者も、最初は両者の違いがわかりませんでした。ネイティブにも何人かに聞いてみました。しかし、違いを分かりやすく説明してくれるネイティブには、ついにお目にかかることはできませんでした。中には、「違いますよ。more than one ―― はmore than one ―― であり、two or more ――s はtwo or more ――sですよ」といって、決して筆者をばかにしているのではなく、真剣な顔でそのようにいうわけです。よく考えてみると、彼らにとってはそうとしか理解しようがないのです。それを、日本人は、意味がどちらも「2つ以上の ――」であるから、この両者を同じものと考えてしまうわけです。
この両者の違いに行きつくまでは、大分、時間がかかりました。ここでお決まりの「トミイ方式」が出てくるわけですが、この疑問が出てきてから
more than one ―― とtwo or more ――sの例
more than two ――s とthree or more ――sの例
more than three ――s とfour or more ――sの例
more than x ――s とx+1 or more ――sの例
を徹底的に集め、それぞれの英文を精査してみました。その結果、ついに発見しました。more than one ―― は、1を強く意識した上での「2つ以上」であり、two or more ――sは、普通の「2つ以上」であるということが分かりました。
次の例文は「トミイ方式」で集めたものです。
Often, they give more than one name to the same thing.
中・上級者の方は、ニュアンスから考えると次の文ではおかしいことが分かると思います。
Often, they give two or more names to the same thing.
英文を読んでいるとmore than one ―― という表現にはよく出合いますので、「トミイ方式」で片っ端から集めて吟味するとmore than one ―― とtwo or more ――sとはニュアンスが違うということが分かります。このことを理解するには、例文をたくさん集める以外方法はありません。
(7) その他から
この分類は、上記の6つの分類に属さないすべてのデータを入れていますが、ここではパンクチュエーションの中の1つ、「セミコロン」についてお話します。
「セミコロン」の用法には大きく分けて
句や節や文を分割する用法
接続詞としての用法
の2つがあります。ここでは後者の「接続詞としての用法」についてお話しします。
日本語にはセミコロンが無いため、英文和訳の際など、英語に使われているセミコロンを無視してしまったり、日本語にもセミコロンをそのまま使って澄ましてしまったりする人がいます。しかし、セミコロンにはちゃんとした意味があるわけですから、その意味に訳出しなければおけません。ただ、厄介なことに、筆者が今までに集めた範囲内だけでも、therefore(したがって)、however(しかし)、that is(すなわち)、because(なぜならば)、on the other hand(一方)、rather(むしろ)、for instance(たとえば)、補足説明、追加説明、but also(~もまた)、furthermore(さらに)、otherwise(さもないと)など11個の意味に使われます。中には、therefore(したがって)とhowever(しかし)のように、全く反対の意味に使われていることすらあります。
詳しくは、後日、当該セクションの中で例文を挙げて説明しますが、ぜひ「トミイ方式」を駆使してたくさんの例文を集め、ご自分でそれぞれのセミコロンに訳を与えてみてください。そうすれば、英文和訳の際には正しい、自然な日本語に訳すことができ、それよりも大きな収穫は、英文を書く時とか、和文英訳するときなど、セミコロンを上手に使うことができ、ストレスの抜けた格調のある英文を書くことができるようになります。ことによると、さらなる用法も発見できるかもしれません。
これで、この連載の第1回に述べたように、7つの大分類を、1) 学習機能および2) 活用機能から見たエピソードのご紹介を終えることにします。そして次回の第5回では、3) 発表・制作機能という切り口から見たエピソードを、「前置詞」を例にとってお話しすることにします。