(2) 50音順
今回から2回にわたり、(2) 50音順です。
前回、下記のような予告をしました。
また、この「順番」と「分類」の概念は、(2) 50音順と(3) 表現別にも適用することができ、実は、(2)は「順番」であり(3)は「分類」になっているわけです。さらに厳密に言いますと、(3)は各「表現」が外的には「50音順」に並べられており、内的には「分類」されていることになります。
(2) 50音順は、純然たる「順番」です。これを、前回の(1) アルファベット順で使用した鉄道の路線図になぞらえて示すと下記の通りです。
となり、始発駅や終着駅はもちろん、すべての駅が ○ です。すなわち、すべての駅が「順番」であり、「分類」は何もないということになります。もちろん、この路線にも、◎、すなわち、急行停車駅のように大きな駅もありました。しかし、これらは、(1) アルファベット順の場合と異なり、◎、すなわち、急行停車駅は独立させ、すべて(3) 表現別に収納させているわけです。
というわけで、今回と次回の2回は、もっぱら英和翻訳の時とか英文雑誌や新聞を読んでいる時などに、自分がそれまでに和英翻訳の時に苦労した単語や表現や言い回しなどを収集してきて集まったものを、もっぱら「50音順」に披露していきます。
ここに集めた50音順の言葉は、おおむね、以下のような基準で収集したものです。
(i) その時点で、過去に、和英翻訳の際にその言葉で 難儀した経験のある言葉
(ii) 和英辞書に該当する英単語があるが、意味が同じでありながら別の単語や表現や言い回しなどで表わしている言葉
(iii) われわれ日本人ならばこの単語や表現や言い回しなどを使うはずなのに、彼らは別の単語や表現や言い回しなどで表わしている言葉
何分にも、翻訳者になりたてのころから集め始めていますので、今なら何ということではない単語や表現や言い回しなどを、ことさら三ツ星料理のように、たいそうに披露しているものもたくさんありますが、「トミイ方式」の来歴を見る思いでご覧いただくと参考になると思います。
それでは、今でも皆さんの評価に耐えられるような単語や表現や言い回しなどを、英語の使用例とともに、 50音順に、スペースが許す範囲内でご披露していきます。
あいまって
in parallel with
In parallel with the development of …
この言葉は、確かに普通の和英辞書に見出し語として出ています。しかし、対応する英語として示されているのは、coupled with や combined などのように別の英語ですので、表現を1つ追加できたことになります。
遊び
play
Avoid humor, especially word play.
In some applications, play between A and B, …
この言葉は、普通の和英辞書にも出ていますが、英語と日本語との間の奇妙な一致があり、それに興味があって集めた言葉です。日本語では、子供たちが何かして遊ぶことを「遊び」と言います。また、意味は全然違うのに、ある2つのものの隙間のことも「遊び」と言います。ところが英語でも、上に例示してあるように、この2つの「遊び」をどちらも play といいます。
穴だらけの
porous
to begin the instant rebuilding of their porous defense
日本語でも、よく「穴だらけの守備」とか「穴だらけの三遊間」などと言いますが、その意味での「穴だらけの」を和英辞書で引いても出てきません。これは、以前に紹介しました、アメリカ出張からの貴重なお土産です。
誤って
accidental
accidental activation
accidental contact with …
日本語の「誤って」という副詞を、英語の accidental という形容詞と対応させていますので、まずその理由から説明します。我々は、よく「誤って」という言葉を使いますが、この言葉は、品詞的には副詞ですので、その後ろには、「作動する」とか「接触する」という動詞が来なければなりません。それを英語で表現すると、正しくは「accidentally に activate する」とか「accidentally に contact with …」となります。しかし、英語は「名詞言語」といわれているように、「activate する」とか「contact する」などという動作を、activation とか contact のように動詞ではなく名詞で表現することがよくあります。一方、日本語は「動詞言語」といわれるように accidental activation や accidental contact with … は「誤った作動」とか「誤った接触」とは表現しないで「誤って作動する」とか「誤って接触する」と言います。実はこれが、「誤って」という副詞を accidental という形容詞と対応させている理由です。
さて、和英辞書を見ても、「誤った」に該当する単語として、accidental という単語を載せている辞書はあまりありません。accidental という言葉は、accident の派生語であることから、「誤って」という意味に結びつきにくいのかもしれません。by mistake とか erroneously など、ほとんどが mistake とか error という言葉を語幹に使った表現を示している場合が多いようです。accidental を「誤った」という意味に捉えておくと、日本語での「誤って~する」に対応する自然な英語を使うことができます。
ある
include
These include AT&T, GTE, TRW, and Hughes Aircraft.
include という言葉は、普通には「~を含む」とか、「~を包含する」などという訳語で表される動詞ですが、このような例においては、「~を含む」より「~がある」と訳したほうが自然です。include の中に「ある」とい訳語を載せている辞書は、あまり見たことがありません。
あろうとなかろうと
be
The repeatability is necessary to compete with the best manufacturers, be they foreign or domestic.
ネイティブの使う be には、しばしば驚かされることがあります。実に自由奔放に使っていて、この用法を知らなければ表現できないというような局面に出くわすこともよくあります。この種の be に出くわしたら、迷うことなく、必ず収集することを、強くお勧めします。
あわせて
to
… can be adjusted to the changing flow conditions
これは、内容のある英単語というのではなく、前置詞 to です。この to が「~に合わせて」という意味に使われているということを知ってからは、その後収集したこの用法の例文は、すべて「大分類」が(4) 品詞別、「中分類」が「前置詞」、「小分類」が「単体前置詞」、「細分類」が「to」、「細々分類」が「あわせて」の中に入れています。最初から「細々分類」までの分類ができるわけではありませんので、初めのうちは、「前置詞」の中の「to」まで分類しておくだけで十分です。詳しくは、(4) 品詞別の中で、また説明します。
前置詞 to に「~に合わせて」という意味があるということは、決して、筆者が発見したわけではなく、英和辞書を丹念に見ていくと、後ろのほうに、必ず出てきます。まだ翻訳者としては駆け出しのころだと思いますが、これを知る前は、おそらく、奇妙な訳をしていたのではないかと、今から思うと冷や汗ものです。
これで、「あ行」の主なものがやっと終わりました。あと1回で残ったすべてを取り上げることはできませんが、このような調子で、次回、もう一度、50音順を取り上げます。