見出し語のアルファベット順配列の欠点は、相互に関連する語が無関係な語の介在によって分断・隔離され、その連携が失われることである。この不備を補うひとつの方法は、前世紀の半ばまで多くの独和辞典が採用していた複合語(合成語)の処理法、つまり規定語(語規定)を見出しとして立て、その項目のなかに語基だけ改行せずに追い込むやりかたで、紙面の節約にもなる。例えば、『クラウン独和辞典 第4版』の1104ページ右欄に、Regenschirm(雨傘) Regent(君主、統治者) Regentag(雨降りの日) Regentropfen(雨滴、雨粒) Regentschaft(君主の統治) Regenwasser(雨水)の順に見出し語が並ぶが、昭和11年4月発行の山岸光宣編『コンサイス獨和辭典』(三省堂)802ページでは、Regen- の項目のなかに ~schirmも ~tag、~tropfen、~wasserも追い込みで入っていて、~zeit(雨季)の後に、改行してRegentが全書されて見出し語として立項されている。Regenzeit がRegentに先置されているから、アルファベット順とはいえないことになる。また山岸『コンサイス』では Gas- (372ページ)のなかに ~vergiftung(瓦斯中毒)が追い込みで入っているが、『クラ独4版』ではGas(516ページ左)(ガス)とGasvergiftung(517ページ左)(ガス中毒)は大きく離れて、その間にはGasse(路地)やGast(客)など Gasとはなんの関係もない語が多数入っている。
東ドイツで刊行された6巻本の『ドイツ語現代語辞典』(R.Klappenbach⁄W.Steinitz: Wörterbuch der deutschen Gegenwartssprache. Berlin 1964-77)がこの規定語のなかに語基だけを追い込む方式を採っていて、やはりRegen–zeit はRegentに先置されている。
1981年3月発行の『三省堂 独和新辞典 第3版』では、規定語の見出しのなかに語基を追い込むが、アルファベット順が乱れる際にはそのつど改行して新たに見出し語を全書して立項する。例えば865ページで、Regen の項目のなかに収める複合語は ~anlage(雨状灌水装置)から ~bö(雨を伴う嵐)までで、それに続く Regenbogen(虹)は改行してあらためて見出し語として全書される。その先でも、Regensburg(地名)のあとの見出し語Regen₌schatten (雨陰)に続く複合語は ~schauer (夕立)から ~strom(篠つく雨)までで、そのあと改行してRegentが全書して立項されている。
今日のコンピューターの進歩・発展は、辞書の見出し語の配列だけでなく、今後の辞書の編集や体裁や普及のみならず、辞書の在り方そのものにまで、予測できないほどの大きくて深い影響を及ぼそうとしているようである。