見出し語は1語とは限らない。1語とみなすことができるような2語以上から成る語句や略語のこともある。例えばFloppy Disk; Fast Food; Fin de Siècle(世紀末); Ultima Ratio(最後の手段); summa cum laude(秀の成績で)など外国語や、固有名詞Le Fort(ドイツの作家名); Mao Tse-tung⁄Mao Zedong(毛沢東); New York; Sankt Gallen(スイスの都市)などである。観光都市Rothenburg も公式名でならRothenburg ob der Tauberと4語になるところ。略語の例ではu.a.m.(← und andere[s] mehr ); u.A.w.g. (← um Antwort wird gebeten ) など。Duden. Die deutsche Rechtschreibung. 24版(2006)ではdas heißt やso wasを2語見出しにしている。『クラ独』も第2版ではwas für einを見出し語にしてWasen(芝)とWashingtonの間に掲げた。現在の新しい正書法では、従来(1996年以前)1語で書いていた副詞unterderhand(こっそりと)は unter der Hand と3語に分けて書くことになったため、この語は『クラ独』の見出しから消え、Handの項に熟語・成句として記されている。High-Tech は1語の見出しHightechとなったが、High-Societyは2語表記High Societyになった。また従来は「語の頭字を大文字で書く」の意味では1語書きgroßschreibenとし、比喩的な「重要視する」の意味では2語書きgroß schreibenとされていたが、いまではどちらの意味でも1語書きgroßschreibenである。groß schreiben と2語に書けば、「大きい字を書く」の意味でしかない。
一般に複数の表記を認めるケースでは、『クラ独』では紙面の節約との兼ね合いでその扱いに苦心した。一つの例を挙げると、machenと結果を表す形容詞の結合では、2語に分けても、1語につづってもよいが、比喩的な意味では1語につづるとされている。そこで『クラ独』第4版での例えばkaltmachenの記述は、①冷たくする.②人を殺す.ただし①の意味ではkalt machen とも、と注記することになる。上記Dudenの『正書法辞典』24版では複数の表記が認められる場合、いずれか一つの表記を推奨(Empfehlung)しているので、『クラ独』第4版でもそれを参考にした。
表記が変わって見出しの位置も移動する語もある。例:Greuel ⇒ Gräuel(残酷行為); Stengel ⇒ Stängel(茎); rauh ⇒ rau(きめの粗い)などはABC順で前送りされる。表記の異同については、『クラ独』第4版では「正書法インデックス」があるので、「この語が辞書に載っていない!」などと早合点しないで、この表でよく確かめてほしい。