大規模英文データ収集・管理術

第17回 「分類」の構成・2

筆者:
2012年2月6日

(1) アルファベット順・2

(1) アルファベット順の概要について述べた前回を受けて、今回は、もう少し内部に入り、例を挙げながら具体的に説明していきます。

同じ単語は1例だけ集めればいいのですか?

という質問に対し、そうではないことは前回に述べましたが、今回はまずその理由からご説明します。次のことが挙げられます。

理由1

例えば increase という単語を考えてみましょう。この言葉には、「増加」とか「上昇」などという「名詞」と、「増加する」とか「上昇する」などという「自動詞」と、「増加させる」とか「上昇させる」などという「他動詞」があります。したって、最低限、これら3種類の例文は集めなければなりません。
注:実際には、この increase という単語は、(3) 表現別という大分類の中の「増加」という中分類の中に分類されています。

理由2

「増加」「増加する」「増加させる」に該当する英単語には increase 以外にもいろいろあります。その場合、それらの言葉と increase との間には意味上の違いがあるのかないのか、あるならばどのような違いであるのか、どちらの言葉が使用頻度は高いのかなどなど、同じ単語の例文をたくさん集めておくと、学習できる点がたくさんあります。

理由3

英語では、1つの単語がいろいろな意味を持つことが多いです。その場合、ことによると、収集した例文から、どの辞書にも載っていない、新しい意味・訳語が発見できることがあります。

これらの理由からも、同じ単語でも、これでもかこれでもかと貪欲に集めると、いろいろな活用方法があることがおわかりいただけると思います。

それでは、今回のテーマに移ることにします。

前回、“(1) アルファベット順は「分類」ではなく「順番」”と述べました。すなわち、(1) アルファベット順そのものは外から見れば「順番」ですが、その内部の構造には、一部ではありますが、「分類」という細胞があるのです。それを鉄道の路線図になぞらえて示すと下記の通りです。

lines.png

◎ や ○ は駅を示していますが、○ はローカル電車の停車駅を表し、◎ は始発駅と終着駅、および途中の急行停車駅を表しています。

これを(1) アルファベット順の場合で考えると、◎ や ○ は、すべてがアルファベット順に並べられている英語の単語です。したがいまして、ここまでは「分類」ではなく「順番」です。しかし、◎ で表示された駅は、何本かの異なった路線が乗り入れており、当然、乗降客の数が多い、大きな急行停車駅です。そのため、このような大きな駅を小さなローカル電車の停車駅と同列にすることができず、どうしても駅ごとに、細分化しなければなりません。それが「分類」というものです。

結論から言いますと、外的には「順番」に並べられた英単語が、その内部は意味的、用法的に「分類」されているということです。今回は、この内部の「分類」を cause という動詞を例にとって説明していきます。これにより、皆さんは、収集した単語をアルファベット順に並べる作業のみならず、たくさん集まった同じ単語を「分類」することもできるようになるはずです。

また、この「順番」と「分類」の概念は、(2) 50音順(3) 表現別にも適用することができ、実は、(2)は「順番」であり(3)は「分類」になっているわけです。さらに厳密に言いますと、(3)は各「表現」が外的には「50音順」に並べられており、内的には「分類」されていることになります。

causeの「分類」例(収集英例文数:約600点)

tomii17table.png

上の表は、カード時代の「分類」をExcelで作表したもので、カード時代の「分類」は、それぞれの「分類」を示すインデックスを付してカードケースの中に収納されています。この表では、スペースの関係で「細分類」までしか表示されていませんが、実際には、さらに右側に「細々分類」と「英例文」の欄があります。

cause は、約400点くらい収集した時点で分類をしたことがありますが、その手順は次の通りです。

1:

まず400点の英例文を大きな机の上で大きく分けてみました。そうすると、「中分類」にあるように、「名詞」、「他動詞の能動態」、「他動詞の受動態」、「過去分詞」(ただし、受動態を作るために動詞の過去分詞として使われている場合は除き、あくまでも形容詞用法として使われている場合に限定しています)、「現在分詞」(「過去分詞」の場合と同じ扱い)の5つに大別できました。

2:

次いで、それぞれをさらに分けて行くと、「小分類」にあるように分けることができました。

3:

さらに、項目によっては、さらなる分類が必要になり、上の表には表示されていませんが、「細分類」にまで分ける必要がありました。

このようにして出来上がったのが、cause についての分類です。

単語によって分類の仕方は当然違ってきますが、基本的には、最初のステップは「品詞別」に「中分類」することから始めるのがオーソドックスな手順だと思います。この連載はここまでしか説明できませんが、後日、別の機会に、少なくとも、急行停車駅は、すべて表示してみたいと思っています。

次回からは、(2) 50音順 です。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。