大規模英文データ収集・管理術

第41回 英文データの実践的収集方法(カード方式)・2

筆者:
2013年1月7日

(b) 1件一葉式

今回は、前回に続いて「1件一葉式」の「データカード2」からです。

データカード2

これは、「無生物主語構文」といって、日本語にはなく、英語だけに発達した構文です。

上部には「無生物主語構文」としか書いてありませんが、実際には

大分類が「構文別」、中分類が「無生物主語構文

です。しかし、大分類が「構文別」であることは分かっていますので、それは省略しています。また、小分類、細分類と分類されていくのですが、最初から過度に分類していっても実質的な意味はありませんので、そこまでは分類していません。

中ほどに英文を書き込み、該当する句、ここでは the addition of additives に赤でアンダーラインを引きます。

下部に記入する出典などは、「データカード1」と全く同じです。

ここで、「トミイ方式」とは直接関係はありませんが、これからも何回か出てくると思いますし、英和か和英かにかかわらず翻訳にとって非常に大事ですので、「無生物主語構文」について触れておきます。

「無生物主語構文」というのは、一言でいうと、「モノ」や「ヒト」ではなく「コト」を主語に取る構文のことで、主に「因果関係」を表現するときの構文です。日本語にはありませんので、英和翻訳のみならず、和英翻訳にも非常に大事な構文ということになります。この「無生物主語構文」を上手に使って和訳すると自然な、翻訳臭のない日本語に訳すことができます。また、この構文を和文英訳で巧みに活用すると、辞書や文法書から飛び出してきたような英文ではなく、格調の高い英文を書くことができます。

この「無生物主語構文」を英文と和文で比較してみると、次の一言でいうことができます。
要するに、英語は

無生物の主語(「コト」) + 他動詞 + 目的語

いっぽう、日本語は

条件節、主語 + 自動詞

です。

すなわち、英語では

何々であることは + 何々を + 何々させる

と書きますが、日本語では

「何々が何々だと(原因)」または「何々が何々なので(理由)」 + 何々は + 何々する

とします。すなわち、

英語の「何々であること」の部分を「何々が何々だと(原因)」または「何々が何々なので(理由)」というように「節」に
英語の「何々を」という「目的語」を「何々は」というように「主語」に
英語の「何々させる」という「他動詞」を「何々する」という「自動詞」に

それぞれ置き換えると自然な日本語になります。これからたくさんの英文に接していると、きっと、おびただしい量の「無生物主語構文」に触れることがあると思います。そのために、実はここは「無生物主語構文」を解説する場ではないのですが、いくつかの代表的な「無生物主語構文」のパターンを示します。

1 形容詞パターン
  主語が「形容詞」+「名詞」(どのような何々は) ⇒ 何々がどのようだと(どのようなので)

2 名詞+名詞パターン
  主語が「名詞」+「名詞」(自動詞から転じた名詞)(何々の何々は)
   ⇒ 何々が何々すると(何々するので)

3 名詞+名詞パターン
  主語が「名詞」+「名詞」(他動詞から転じた名詞)(何々の何々は)
   ⇒ 何々を何々すると(何々するので)

4 動名詞パターン
  主語が「動名詞」+「名詞」(何々を何々するということは) ⇒ 何々を何々すると(何々するので)

5 show thatパターン
  主語が「無生物」(動詞から転じた名詞)+show [indicate、demonstrate、prove、revealなど] that(何々はthat以下のことを示している) ⇒ 何々の結果、that 以下のことが分かった

6 presenceパターン
  主語に「presenceやabsenceを含む名詞」(何々の存在は、または、不在は) ⇒ 何々があると(または、ないと)

これ以外にもたくさんのパターンがありますが、ご興味のある方は、拙著「技術英語構文辞典」(三省堂)をご覧ください。

データカード3

これも、前置詞inの用法を学習するために採取した英文です。この場合には

are in common use

に焦点を当てて収集したものです。すなわち

be動詞 + in + 動詞から転じた名詞

です。そのうち、大分類が「品詞別」、中分類が「前置詞」、小分類が「in」までは「データカード1」と同じですが、その下の階層である細分類としては「」ではなく「~中である」の中に入ります。

日本語に、よく「~している」とか「~されている」という表現が出てきますが、これを英訳しようとするとき、初心者はほとんどの人が現在進行形で表現してしまいます。しかし、「~している」とか「~されている」という表現には、(1)「動作・行為」を表しているものと(2)「状態」を表しているものがあります。(1)は、確かに現在進行形で表現してもよいのですが、(2)は「状態」を表す表現を用いなければなりません。その表現が

be動詞 + in + 動詞から転じた名詞

です。似た表現は、以下のようにいろいろあります。

be in operation 稼働している、稼働中である
be in production 生産されている
be in contact with ~ ~と接触している
be in motion 動いている、運動中である

「1件一葉式」とはいかがなる方式であるかを紹介するために英例文を示したわけですが、英例文の中身に膨大な紙面を使う結果となってしまいました。しかし、これも、「トミイ方式」の大事な部分ですので、「トミイ方式」についての理解をより深めていただくためには必要であったと思います。

データカード1」でも、同じ英例文が

大分類が「品詞別」、中分類が「前置詞」、小分類が「in」と
大分類が「表現別」、中分類が「増加」、小分類が「名詞形

の2か所に入れることができるといいましたが、この「データカード3」もup to 3600 hpに焦点を当て

大分類が「数量表現別」、中分類が「数量語句周りの表現」、小分類が「最高

とすると2つ目の英文データとして収集することができます。この部分には、「データカード3」と同様、up to 3600 hpに赤の点線でアンダーラインを引いてあります。

次回は (c) 複文一葉式 を取り上げます。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。