「Wellington No.2」は、ボストンのキダー(Wellington Parker Kidder)が発明したタイプライターで、ニューヨーク州プラッツバーグのウィリアムズ・マニュファクチャリング社が、1896年頃に製造・販売を開始しました。コルビー(Charles Carroll Colby)率いるウィリアムズ・マニュファクチャリング社は、カナダのモントリオールにも生産拠点を持っていたのですが、そちらでは「Empire Typewriter」という名称で販売していたようです。
「Wellington No.2」の最大の特徴は、スラスト・アクションと呼ばれる印字機構にあります。各キーを押すと、対応する活字棒(type bar)が、まっすぐプラテンに向かって飛び出します。プラテンの前面には紙が挟まれており、そのさらに前にはインクリボンがあって、まっすぐに飛び出した活字棒は、紙の前面に印字をおこないます。これがスラスト・アクションという印字機構で、打った瞬間の文字を、オペレータが即座に見ることができるのです。
28本の活字棒には、それぞれ活字が上下に3つずつ埋め込まれていて、プラテン・シフト機構により80種類の文字が印字されます。「Z」の左側にある「Caps」を押すと、プラテンが沈んで、大文字が印字されるようになります。その左の「Figs」を押すと、プラテンがさらに沈んで、数字や記号が印字されるようになります。「Wellington No.2」のキーボードは、基本的にはQWERTY配列ですが、「V」と「B」の間に、逆T字形のスペースキーが入り込んでいます。上段のキーには、小文字側にqwertyuiopが、大文字側にQWERTYUIOPが、記号側に1234567890が、それぞれ配置されています。中段のキーには、小文字側にasdfghjkl,が、大文字側にASDFGHJKL,が、記号側に#$¢”?@-%&,が配置されています。下段のキーには、小文字側にzxcvbnm.が、大文字側にZXCVBNM.が、記号側に()/:’;_.が配置されています。28本の活字棒に、それぞれ3種類の活字が埋め込まれているので、最大84種類の文字を印字可能なのですが、コンマとピリオドがダブっているため、80種類となっているのです。
「Wellington No.2」は、日本では丸善(Z. P. Maruya & Co., Ltd.)が、輸入代理店となっていました。ただ、「Wellington No.2」のスラスト・アクションは故障が多く、かなり頻繁にメンテナンスを必要としたため、丸善ではタイプライター教室を開くとともに、メンテナンス指導もおこなっていたようです。