タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(41):Blickensderfer No.8

筆者:
2018年9月27日
『Typewriter and Phonographic World』1907年6月号
『Typewriter and Phonographic World』1907年6月号

「Blickensderfer No.8」は、ブリッケンスデアファー(George Canfield Blickensderfer)が、1907年に発売したタイプライターです。「Blickensderfer Electric」の販売が伸び悩んだせいか、「Blickensderfer No.8」は電動ではなく、機械式のタイプライターです。

「Blickensderfer No.8」の特徴は、タイプ・ホイール(type wheel)と呼ばれる金属製の活字円筒にあります。タイプ・ホイールには84個(28個×3列)の活字が埋め込まれていて、縦に並んだ活字3個ずつが、それぞれ文字キーに対応しています。このタイプ・ホイールが、回転しつつ、プラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、プラテンに置かれた紙の前面に印字がおこなわれるのです。

28個の文字キーは、ブリッケンスデアファー独特の配列で、上段のキーがzxkgbvqjと、中段のキーが.pwfulcmy,と、下段のキーがdhiatensorと並んでいます。左端の「CAP」キーを押すと、タイプ・ホイールが持ち上がって、上段のキーはZXKGBVQJに、中段のキーは.PWFULCMY&に、下段のキーはDHIATENSORになります。「FIG」キーを押すと、さらにタイプ・ホイールが持ち上がって、上段のキーは-^_()@#:に、中段のキーは./'"!;?%¢$に、下段のキーは1234567890になります。キーボードの右端には「BACK SPACE」キーが見えます。

「Blickensderfer No.8」のタイプ・ホイールという印字機構は、当時としては、かなりスピードの遅いものでした。キーを押す力でタイプ・ホイールを回転させるのですから、機構上、スピードの遅さは仕方のないことだったのです。その後、下の広告にもあるように、「Blickensderfer No.8」には、デシマル・タブ(数字の桁数に合わせて、複数文字分プラテンを移動する)機構が追加され、ユニバーサル配列(いわゆるQWERTY配列)のモデルも発売されました。ただし、上段の文字キーが8個しかないため、QWERTY配列も「Q」や「P」を下段に移すしかなく、やや変則的なキー配列にせざるを得なかったようです。

『Phonographic World and Commercial School Review』1910年1月号
『Phonographic World and Commercial School Review』1910年1月号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。