タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(43):Smith-Corona Compact 250

筆者:
2018年10月25日
『Nation's Business』1962年10月号
『Nation's Business』1962年10月号

「Smith-Corona Compact 250」は、SCMが1962年に発売した電動タイプライターで、「Smith-Corona Coronet」の上位機種にあたります。「Smith-Corona Compact 250」は電動タイプライターですが、「Smith-Corona Coronet」と同様、印字機構はフロントストライク式でした。44本の活字棒(type arm)が、プラテンの前面を叩くことで印字をおこなう、という点は、それ以前の機械式タイプライターと基本的に変わっておらず、印字機構を電動にしただけだったのです。ただし、複数のキーを同時に押しても、活字棒は1本だけしか動かず、ジャミングは避けられるようになっていました。

「Smith-Corona Compact 250」のキーボードは、基本的にQWERTY配列ですが、最上段に数字が1234567890-=と並んでいて、そのシフト側に記号が!@#$%¢&*()_+と並んでいます。「@」が「2」のシフト側にあるという点が「IBM Electric Typewriter」をまねていて、これが当時の電動タイプライターのキー配列の主流になりつつあったのです。なお「Smith-Corona Compact 250」は44キーですが、ピリオドとコンマがシフト側にもダブっており、収録文字数は86種類でした。

「Smith-Corona Compact 250」のキーボード左端下には、「COPY SET」ダイヤルが見えます。通常は「1」にセットしておくのですが、数字を大きくすると、プラテンを叩く活字棒の力が強くなります。これにより、カーボン紙を挟んだ複数枚の紙に対して、印字の濃さをコントロールできるようになっているのです。キーボード右端下には「ON/OFF」の電源スイッチがあり、その奥にはインクリボンの赤と黒を切り替えるスイッチがあります。最上段のキーのさらに奥には、「SET」と「CLEAR」の大きなキーがあり、マージン位置の設定と解除を、自由におこなえるようになっていました。

「Smith-Corona Compact 250」のプラテンは、全ての動作が電動です。「RETURN」キーを押すと、キャリッジリターンと改行を同時におこないます。「Q」の左横にある赤い「→」キーはバックスペースで、押しっぱなしにすると、プラテンがどんどん戻っていってしまいます。その左上にある赤い「←」キーは「HALF SPACE」で、通常の半分だけプラテンを進めます。これにより、センタリング(中央揃え)を行う際に、文字数が奇数の場合と偶数の場合で不格好にならない、というのが「Smith-Corona Compact 250」の謳い文句でした。ただし、センタリングを自動で揃えてくれるわけではなく、そこはオペレータ自身が各行の文字数を数えて、必要な数だけ「HALF SPACE」を打つ必要があったのです。

『Rotarian』1963年12月号
『Rotarian』1963年12月号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。