タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(57):Adler 7

筆者:
2019年5月23日
『Allgemeine Rundschau』1913年3月29日号
『Allgemeine Rundschau』1913年3月29日号

「Adler 7」は、クライヤー(Heinrich Ludwig Kleyer)率いるドイツのアドラー社が、1900年に発売したタイプライターです。アドラー社は「Adler 7」の開発に際し、ウィリアムズ・マニュファクチャリング社の技術供与を受けていて、その結果「Adler 7」は「Wellington No.2」に非常によく似ています。

「Adler 7」の特徴は、スラスト・アクションと呼ばれる印字機構にあります。各キーを押すと、対応する活字棒が、まっすぐプラテンに向かって飛び出します。プラテンの前面には紙が挟まれており、そのさらに前にはインクリボンがあって、まっすぐに飛び出した活字棒は、紙の前面に印字をおこないます。これがスラスト・アクションという印字機構で、打った瞬間の文字を、オペレータが即座に見ることができるのです。

30本の活字棒には、それぞれ活字が上下に3つずつ埋め込まれていて、プラテン・シフト機構により90種類の文字が印字されます。「Z」の左にあるシフトボタンの右側を押すと、プラテンが沈んで、大文字が印字されるようになります。シフトボタンの左側をさらに押し込むと、プラテンがさらに沈んで、数字や記号が印字されるようになります。なお、キーボード右側にあるボタンは、左側のシフトボタンと同じ形をしていますが、紙の着脱用ボタンです。また、スペース・キーの右下にあるのは、バックスペース・レバーです。

「Adler 7」のキーボードは、いわゆるQWERTZ配列です。基本キー配列の場合、上段のキーには、小文字側にqwertzuiopが、大文字側にQWERTZUIOPが、記号側に1234567890が、それぞれ並んでいます。中段のキーには、小文字側にasdfghjkl,が、大文字側にASDFGHJKL;が、記号側に%':§/?+=&.が、それぞれ並んでいます。下段のキーには、小文字側にyxcvbnmäöüが、大文字側にYXCVBNMÄÖÜが、記号側にß-„”!₰ℳ()_が、それぞれ並んでいます。

「Adler 7」には、活字にフラクトゥール(𝔉𝔯𝔞𝔨𝔱𝔲𝔯)を搭載したモデルもありました。当時のドイツの印刷物には、まだまだフラクトゥールが使われており、文書はフラクトゥールで印字すべきだという考えが強かったのです。ただ、等幅のフラクトゥールというのは非常に読みにくく、タイプライターには不向きな活字だったようです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。