鈴木マキコ(夏石鈴子)さんに聞く、新明解国語辞典の楽しみ方

新明解国語辞典を読むために その2 第2回

筆者:
2021年7月21日

前回「爆発物件」からつづく)

p.73「いじげんくうかん【異次元空間】」

異次元空間の事は、よくわかりませんでしたが、新解さんが異次元空間について力一杯説明して下さっているのだな、という事実は、よくわかりました。ありがとうございます。一山、どかーん。

p.671「しにざま【死(に)様】」

用例は「みじめな―」。

この火山の噴火は小規模かもしれませんが、新解の主張が大爆発しているのである。新解さんの、語釈と用例のバランスは、これでいいのかなぁ、と思う。せっかくなので、「いきざま」も見ます。

p.67「いきざま【生き様】」

はい、ここも強く主張が爆発しています。

p.657「したたか【強か】」「[一]逆境に~様子だ。」にハイライト

したたか、というのは本人ではない人(たち)が、そう思うものだと伝わります。

p.347「きけい【奇計】」

したたかな人は、きっと頭がいい。

p.370「ぎゃっきょう【逆境】」

とにかく、あきらめて「もう、これでいいや」と思わない事が大切だと、わかりました。

最初に気が付いた爆発物件は、「いたちごっこ」です。これについては『新解さんリターンズ』p.57で報告しています。写真のいたちごっこを楽しむ二人の子供は、うちの子たちで上の子は、この四月で社会人になり、下の子は成人致しました。八版でも、「いたちごっこ」は変わらず爆発を保っていますので、ぜひ見て下さい。

p.536「こし【腰】」「[一]胴体の下部で~指したり する〕」にハイライト

腰は体の「要」で大事ですから、新解さんは正しく爆発しているのです。

p.1620「よのなか【世の中】」「(一)社会人として~とらえられる。」にハイライト

はい、また一岳爆発している。これは火山の爆発と同時にロシア文学でもある。わたしの高校の担任の先生は、吉野孝雄先生です。早稲田大学でロシア文学を専攻なさいました。先生は授業で、『外套』について、

「これはね、『コート』とか『オーバー』では、この作品は成り立たないの。ロシア文学の『外套』はそういう作品です」

と、おっしゃいました。そうだなぁ、その外套は明るい色の布地ではないし、ぶ厚い布で、重くてサイズも合っていないだろうし、着ていてもあまり暖かくなさそうです。吉野先生のあだ名は「山伏」でした。学校の授業以外に宮武外骨、赤瀬川原平について教えて下さり、話の中身は忘れてしまって申し訳ありませんがロシア文学についての認識を、わたしに与えて下さいました。先生、ありがとうございます。

就職の時、出版社を受けると電話で申し上げたら、「かわいそうだけれど落ちるから、受けるだけ無駄だよ」と、おっしゃいました。生徒が悲しまないようにと、常に考えて下さる先生って、ありがたいですね。でも、わたしは入社試験を受けました。それは、なぜか。何でも「物は試し」と思っているからです。

だめだろうと思われる物でも、自分が試してみたいなら、誰にも遠慮せずやってみればいいのです。現実では、思い掛けない事も案外平気で起る。わたしは、ひょうたんから駒は、時々出るものだと思っています。人の言うことを聞かない効能もあります。失敗なんて全然恥かしくない。やりたい事をしなかった自分のほうが悔しくて恥かしい。

 

(つづく)

筆者プロフィール

鈴木マキコ ( すずき・まきこ)

作家・新解さん友の会会長
1963年東京生まれ。上智大学短期大学部英語学科卒業。97年、「夏石鈴子」のペンネームで『バイブを買いに』(角川文庫)を発表。エッセイ集に『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』(以上、角川文庫)『虹色ドロップ』(ポプラ社)、小説に『いらっしゃいませ』『愛情日誌』(以上、角川文庫)『夏の力道山』(筑摩書房)など。短編集『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(小学館文庫)は、盛岡さわや書店主催の「さわベス2017」文庫編1位に選ばれた。近著に小説『おめでたい女』(小学館)。

 

編集部から

『新明解国語辞典』の略称は「新明国」。実際に三省堂社内では長くそのように呼び慣わしています。しかし、1996年に刊行されベストセラーとなった赤瀬川原平さんの『新解さんの謎』(文藝春秋刊)以来、世の中では「新解さん」という呼び名が大きく広まりました。その『新解さんの謎』に「SM君」として登場し、この本の誕生のきっかけとなったのが、鈴木マキコさん。鈴木さんは中学生の時に出会って以来、長く『新明解国語辞典』を引き続け、夏石鈴子として『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』を執筆、また「新解さん友の会」会長としての活動も続け、第八版が出た直後には早速「文春オンライン」に記事を書いてくださいました。読者と版元というそれぞれの立場から、これまでなかなかお話しする機会が持ちづらいことがありましたが、ぜひ一度お話しをうかがいたく、このたびお声掛けし、対談を引き受けていただきました。「新解さん」誕生のきっかけ、その読み方のコツ、楽しみ方、「新解さん友の会」とは何か、赤瀬川原平さんとの出会い等々、3回に分けて対談を掲載いたしました。その後、鈴木さん自身による「新解さん」の解説記事を掲載しております。ひきつづき、どうぞお楽しみください。