今回は地域と結び付いた外来語が使われたみやげを取り上げます。1980年代に新潟駅ビルのみやげもの店で入手したお菓子二つを紹介しましょう。
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まず「はらしょ」【写真1】。ひらがなとロシア文字で記してあります。「すばらしい」「ワンダフル」の意味です。「ハラショー」は、終戦後厳しいシベリア抑留生活を経験した人が、引き揚げで日本に持ち帰ったロシア語です。
「すぱしーぼ」【写真2】もひらがなに小さなロシア文字が添えてあります。「ありがとう」という意味です。こちらは、各国の感謝のあいさつが並べられるときに使われます。
この2種類、21世紀に入ってからは見かけません。「はらしょ」の発売元丸屋本店にメールで問い合わせたら、「販売開始は1964年頃から」で、「以前のトヨ型の形状から、小型羊羹に」変えて、作り続けているそうです。一方「すぱしーぼ」を出した香月堂は2009年に閉店したそうです。写真は、レアものです。中身を入れたまま冷凍庫で保存していたら、超レアものでしょうが。
昔は新潟とロシアのハバロフスクを結ぶ空路がありました(今は夏だけです)。ハバロフスクからシベリア鉄道に乗り継いでモスクワまで行くのが安いルートでした。また1990年前後にはロシアの船員が新潟港で中古車買い付けをすることもありました。ロシアと交流があったおかげで、新潟市内の観光案内板でも日英中韓以外にロシア語が使われることがありました。この動きを経済的に活用したのが、上のお菓子2種です。
なおShunsuke Ogawa (2010)の以下の論文には、九州の外来語みやげが載っています。
On the decay, preservation and restoration of imported Portuguese Christian missionary vocabulary in the Kyushu district of Japan since the 16th century(//kuscholarworks.ku.edu/dspace/bitstream/1808/7333/1/SC.2010.1.150-161.pdf)(PDFファイルが開きます)
「クルス」「バテレン」「ザビエル」で、江戸時代以前の日欧交流を反映したものです。日高貢一郎さんの私信によると、九州各地と山口県に類例があります。かつての開港地函館には「トラピストクッキー」があります。横浜と神戸にもきっとあるでしょう。
このシリーズのテーマは「言語経済学」です。その実用講座が11月10日に開かれます。日本で(世界で?)はじめての試みです。この三省堂のシリーズ「地域語の経済と社会」がきっかけになったものです。以下のウェブページをご覧ください。
日経ビジネススクール:ビジネスに活かせる「多言語化社会」対応講座~訪日観光客2000万人時代の経済言語学~ 案内ページへ(//www.nikkei-nbs.com/nbs/seminar/141110Ld.html)